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11月18日:蚊が人の血液を吸えるための進化の鍵(11月13日号Nature掲載論文)

2014年11月18日

もう下火になったが、一時大騒ぎをしたデング熱は蚊が媒介する。しかし、蚊は昔から人の血液を吸う昆虫だったのだろうか?現在人間+家畜+ペットの総重量は、地球に生息する全ての哺乳動物全体のなんと98%に達するという。それなら、蚊も当然人間や家畜を利用する方が効率がいい。しかし、1000年前にはこれが0.5%しかなかったのではと推定されている。まあ、人間の支配が急速に進んだと言えるが、蚊の方も必要に応じて急速に進化する必要があった。今日紹介するロックフェラー大学からの論文は、まさにこの問題、すなわち蚊が人間に対する指向性を獲得するようになるのに必要だった分子を探した研究だ。タイトルは「Evolution of mosquito preference for humans linked to an odorant receptor(蚊が人類への親和性を獲得する進化は一つの嗅覚受容体に関連させることができる)」で11月13日号のNatureに掲載された。しかしこれまで馴染みのなかった昆虫の論文は全てが勉強だ。まず世界には約一万種類の動物の血を吸う昆虫が生息しているが、そのうちの高々100種類が人間の血液を吸う。この研究では、様々な病気を媒介するネッタイシマカで、ヒトの血を吸うグループ(K14)と、全く吸わないグループ(K27)をケニヤから採取している。両者は交配可能で、種として分かれているわけではない。K14、K27を研究室で繁殖し実験に用いている。人間の手と、モルモットのどちらに惹かれるかを調べると、期待通りK14は人間の手、K27はモルモットに指向性を示す。両方の遺伝的バックグラウンドを揃えるために、K14、K27を交配した子供をさらに交配し孫世代の中からヒト型と動物型のメスを選んで、両者の発現している遺伝子の違いを探した結果、最終的にOr4と呼ばれる嗅覚受容体の発現レベルの差がヒトに惹かれる遺伝子変化であることを突き止める。次にOr4をショウジョウバエに導入して、ヒト特有の匂いを構成する分子に対する反応を調べ、Or4がスルカトンと呼ばれる化学物質に反応する受容体であることを突き止めた。K14がヒトへの指向性を持つようになったのは、Or4発現が上昇する調節領域の変異が起こったためと推定されるが、ではOr4遺伝子自体にも変化はないのか、実験室で確立したネッタイシマカのコロニーの遺伝子を調べたところ、7種類の変異を認め、それをショウジョウバエに導入してスルカトンとへの反応を調べると、大きな変化があることを明らかにしている。まとめると、ネッタイシマカがヒトへの指向性を持つ原因となる嗅覚受容体Or4を特定し、またその受容体が感知するニオイ物質を決定し、さらに確かにOr4の変異で蚊がヒトへの指向性を持つよう進化することを示した大変な仕事だ。ヒトへの指向性を持つ他の蚊についても研究が進むと、代々木公園の蚊を惹き寄せて一網打尽にすることも可能になるだろう。しかしこの仕事が行われたロックフェラー大学というと、野口英世ゆかりの大学だ。ネッタイシマカはもちろんデング熱だけでなく、野口英世を斃した黄熱病も媒介する。大学に息づく伝統を感じる仕事だった。

 


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