AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 11月25日:地道に進む血友病の遺伝子治療(1 1月20日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

11月25日:地道に進む血友病の遺伝子治療(1 1月20日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2014年11月25日

連休中、興味にまかせて少し難しい論文を紹介しすぎたので、今日はわかりやすい、血友病の患者さんにとって期待の持てる論文を紹介する。遺伝子治療の可能性の研究が始まってからおそらく30年は経つだろう。私が熊本大学の教授をしていた1991年、当時日本で遺伝子治療を手がけていた北海道大学小児科から遺伝子治療の基礎を研究したいというO君を受け入れた。ちょうど日本全土に大被害をもたらした19号台風の年だったのでよく覚えている。O君はその後も初志を貫いているが、遺伝子治療の歩みは遅かった印象がある。それが最近になってこのホームページでも今年に入ってすでに遺伝子治療の臨床治験を4回も紹介しているように、急速に臨床応用が進み始めた印象がある。今日紹介する英国血友病センターからの論文は長年開発が続けられてきたB型血友病に対する遺伝子治療の臨床治験の結果で、実用化が近いことを確信できる結果だ。論文のタイトルは「Long-term safety and efficacy of factor IX gene therapy in hemophilia B(B型血友病に対する第9因子遺伝子治療の安全性と効果についての長期調査)」だ。血友病は血液凝固因子第VIII因子、第 IX因子の遺伝子変異により起こる病気で、基本的には血液凝固が起こらないため出血がおこる。原因がはっきりしており、凝固因子を補充することで出血を止めたり予防することができる。以前問題になった凝固製剤へのHIVウィルスや肝炎ウィルスの混入は組み換えタンパク製品が使えるようになり解決したが、一本数万円する凝固因子を打ち続けなければならないという問題は解決しない。この論文の試算では、1年間に25万ドル(ほぼ3千万円)のコストがかかるようだ。このような状況を打開するため、かなり以前から遺伝子治療ベクターの開発が続けられ、2000年を過ぎると臨床治験に進んだ。しかし期待に反し安定的に凝固因子は生産されず、更にベクターに用いたアデノウィルスに対する免疫反応による肝炎が多発し治験は失敗に終わった。この失敗を受けて、自己相補型のアデノウィルスベクターが開発され、また遺伝子もタンパクの産生が最適になるようコドンを変化させ、2011年ようやく第1相治験にこぎつけている。この結果安全性が確認され、低〜中用量4人、高用量6人の2相試験のへと進んでいる。患者さんは一回だけ遺伝子を投与され、その後は必要な場合だけ凝固因子を補充するという形で2−4年経過を観察している。結果は、高用量の遺伝子を投与された患者さんでは確かに肝炎などの副作用が出るが、6人中5人がほぼ凝固因子補充を行わなくとも出血が起こらない程度に、導入した遺伝子から第IX因子が作り続けられたという結果だ。副作用も、プレドニンの治療で対応可能で、ついに実用化が可能なレベルに到達したと言っていいだろう。これまでの経過を見ると、合理性のある治療は時間がかかっても必ずいつか実現するという印象を私自身は持つ。一方、ウィルスの混入問題など、これまで医学に振り回されてきた患者さんにとって、この治療を受けるかどうか難しい決断だと思う。医学側としては、これで満足しているはずはない。副作用の原因もはっきりしており、さらに改良を重ねたベクター作成を目指して欲しいと思う。多くの分野で遺伝子治療が現実になりつつあることを実感する。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*