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11月29日エボラビール遺伝子ワクチン(11月27日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2014年11月29日
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11月28日アメリカ疾病予防管理センターが発表した数字では、エボラビールス感染者は15000人を突破した。このような数字をほぼリアルタイムで報告し(WHOのサイトよりずっと見やすい)、軍隊を中心に緊急援助を展開するアメリカの貢献には頭がさがる。一方、我が国の首相はエボラ援助に関する国際会議のスピーチで「何としてもエボラ出血熱の流行に終止符を打たねばなりません。日本としても能うかぎりのことをする決意であります。・・・これまでの取組を強化するため、新たに4000万ドルの支援を行うことを、この場でお約束します。」と、結局は援助金の増額を約束するにとどまらざるを得なかった。国際会議でのスピーチで金の話しかできず、専門家10名を現地に派遣したのが精一杯という状況でスピーチを強いられて、世界の前で恥をかかされた首相はさぞ悔しかったことだろうと察する。アメリカに目を移せば各国への人的支援だけではない。新しい治療やワクチンにも緊急援助を行い、感染を早期に食い止めようと必死だ。今日紹介するアメリカNIHからの論文は、エボラワクチンの臨床試験が加速しており、実現に近づいていることを報告する論文で、11月27日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Chimpanzee adenovirus vector Ebola vaccine-preliminary report(チンパンジーアデノウィルスベクターを用いたエボラワクチン、予備的報告)」だ。パストゥール以来様々なワクチン製造法が開発されてきたが、徐々に遺伝子工学をもちいる手法に変わりつつある。安全性や、ウィルス側の変異に迅速に対応するためにも、機動性が高い。今回使われたウィルスベクターはチンパンジーのアデノウィルスを改変したベクターで、このベクターにエボラウィルスのグリコプロティンを組み込んでワクチンを作成している。論文を読むと、2011年に開発が始まったらしいが、サルを用いた研究でこのウィルスベクターのワクチンとしての高い能力が示されていたため、このベクターが選ばれたようだ。2014年5月にエボラの発症が確認されたすぐからFDAと話し合い、認可までの道筋を圧縮することが決まり、今回の第1相試験が行われた。エボラウィルスのグリコプロテインも系統により異なるので、2種類のグリコプロテインを組み込んだベクターを含む様々なベクターが作成され、健常人に200億個、2000億個のウィルス粒子を一回投与して、抗体とT細胞免疫の出来方を調べている。結果は上々で、2000億個を投与すると4週で抗体価が平均で500倍上昇し、T細胞免疫記憶も成立しているという結果だ。特にT細胞記憶は、2度目の免疫やビールスの進入で、強い2時免疫反応が起こることを期待させる。第1相なので、もちろん安全性の確認が目的だが、ワクチン接種後すぐに発熱した人が2割に出ているが、対応可能ということで次の段階に進める。かなり期待できる結果だと思う。この論文についてはNBCニュースもHope at last, trial Ebola vaccine seems to work (ようやく希望の光、エボラワクチンの効果がありそうだ)と詳しく報告している。エボラの死亡率は感染者の半分以上と恐ろしい。しかしパストゥールが立ち向かった狂犬病は死亡率100%だ。この緊迫感の中で、着実に技術を開発する医学はやはり誇らしく思う。しかし、我が国の国際貢献のあり方についてはせめてアメリカの10%の能力が出せる程度を目標に再検討すべきだろう。

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