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11月30日:論理的にがん免疫療法を進める手段が揃った(11月27日号Nature掲載論文)

2014年11月30日

11月21日このホームページで、ガンに起こった多くの突然変異の中から、ガンだけに発現している抗原を特定して、ガンに対する免疫が成立するかどうかを調べる方法について紹介した。同じ趣旨の論文が11月27日Nature 誌にドイツのベンチャー企業から発表された。この2編の論文は、ともに、ガンのタンパク質に翻訳される全遺伝子部分(エクソーム)検査を行うことで、免疫療法が可能かどうかが予測できる可能性を示している。今このようなガンの免疫療法が期待される背景には、免疫反応を弱める細胞表面分子に対する抗体療法が実際の臨床に応用されようとしていることがある。11月21日紹介したCTLA4と呼ばれる分子と、今日紹介するPD1及びPDL1分子だ。これまで高い可能性があるとして期待されてはいたが、結局試行錯誤が続いていたガンの免疫療法が、合理的な予測可能な治療に転換するための材料がついに揃ったという実感を私はひしひしと感じている。しかしこれは私だけではない。このことをアナウンスするために、なんとPD1/PD-L1抗体についての臨床論文3編が同じ号のNatureに同時掲載された。これは特殊なことだが、Natureの編集者もガン免疫療法の急展開を実感してのことだろう。この3編の論文のうちロンドンのクィーンメリー大学から発表された最初の1編のみを紹介するが、他の論文のメッセージは全く同じだ。タイトルはMPDL3280A(anti-PD-L1) treatment leads to clinical activity in metastatic bladder cancer (MPDL3280A(anti-PD-L1)治療は転移性膀胱癌に効く)」だ。転移性膀胱癌は現在治療が困難だ。研究では、この患者さんからまず生検組織を送ってもらい、ガン組織に浸潤する細胞について、免疫を弱めるPD-L1の発現程度を0−3段階に分類し、その後ロッシュ社が提供する抗PD-L1抗体を投与して経過を見ている。要するに、免疫を弱めるPD-L1分子が強く発現しているガンほどこの抗体療法が効くという予想が当たるかどうか調べている。結果は予想通りで、発現程度が最も高い3度の患者さんでは50%、2度で40%、1度で13%、0度で8%と、発現が高い場合に効果が得られる。ただこの発現と効果の完全な一致が得られないのは、組織が今回の治験の1−10年前に採取されており、抗体治療時のガン組織の状態を反映していないからと想像している。これまで全く打つ手がなかった転移性膀胱癌に大きな光がさしてきたことは確かだ。ただ、この論文の最も重要なメッセージは、CTLA4やPD1/PD-L1に対する抗体療法は、免疫反応が成立し、その反応をこれら分子が抑えているときにだけ効果があることを示している。この種の抗体はこれから続々上梓されると思うが、きちっと検査をした上で効果を予測し投与することが重要で、ともかく注射して様子を見てみましょうなどといった試行錯誤に頼らないことが大事だ。おそらくこの抗体治療は1回数十万円するのではないだろうか。とすればまずお金をかけて、組織の免疫抗体法検査、エクソーム検査を組み入れても、無駄な治療が行われるよりずっとコストは安上がりだろう。これまでワクチン療法、ガンの細胞移入など多くのガン免疫治療は「理論的には効くはずですからやってみましょう」と試行錯誤が続いてきた。今回の研究も含めて現在急展開しているガンの免疫療法は、その効果を合理的に予測し、患者さんの期待に100%答える治療法に大きく前進したことを意味する。エクソームを調べれば、個人用のワクチンを設計することも可能だ。期待を裏切らないガンの免疫療法元年が始まった。そのためにも、まず医療現場で新しい免疫療法の意味を完全に把握し、従来の試行錯誤的治療を排除していく努力が必要だと思う。


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