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12月2日:破傷風毒素(11月28日号Science掲載論文)

2014年12月2日

日本の医学生にとって破傷風といえば北里柴三郎だ。コッホ研究室でベーリングとともに、嫌気性菌の培養法を確立し、破傷風に対する血清療法を確立した。パストゥールの免疫原(ワクチン)に対し、北里は血清(抗体)の発見と位置づけられる。北里は熊本県小国村出身だ。ずいぶん前、熊大医学部の教授になって第一回目の免疫学の講義の時、熊大だから北里から話をするべきだと意気込んで、「君たち、抗体を初めて発見した人は誰か知っているか?」と切り出したら、誰も知らず白けた覚えがある。今日紹介する英国ガン研究所からの論文は、破傷風毒素が細胞内に取り込まれる経路を特定した研究で11月28日号のScience誌に掲載されている。タイトルは、「Nigogens are therapeuticc targets for prevention of tetanuss (ニドジェンは破傷風治療の標的分子)」だ。私も知らなかったが、破傷風毒素は2つの分子の重合体で、小さな分子が筋肉興奮を抑制するシナプスを阻害するタンパク分解酵素で、この結果筋肉痙攣が続く悲惨な症状を引き起こす。一方大きい方の分子は、毒素が神経細胞内に取り込まれ、軸索を通って神経細胞体へと移動するのに必要であることがわかっていた。しかし、毒素がまずどの分子に結合して細胞内に取り込まれるのか実は明確ではなかった。この研究では、まずタンパク化学を駆使して、毒素が運ばれているエンドゾームを解析し、この分子がニドジェンと呼ばれる神経細胞の基底膜を形成する分子に結合することを突き止める。そして、エンドゾームに取り込まれた後、ニドジェンと毒素は安定に維持され、毒素が長期に渡って働くのに一役買っていることを明らかにした。ニドジェン遺伝子がノックアウトされた神経細胞には毒素は結合せず、また取り込まれない。他にも多くの実験が行われているが、この発見がこの研究の全てだろう。破傷風治療の観点から見たとき、この論文で最も重要なのは、ニドジェンと毒素の結合を阻害するペプチドを特定したことだろう。このペプチドを投与すると、毒素の神経への結合が阻害され、完全ではないが神経痙攣が起こるのを抑えることができる。北里とベーリングによる破傷風血清療法(1890年)から125年を経て、初めて新しい治療法の可能性が生まれた記念すべき論文だと思う。毒素はニドジェンをうまく利用して、ほんの少量でも神経細胞に濃縮され、細胞を殺すことなく恐ろしい痙攣を維持するための完璧なメカニズムを備えていた。このメカニズムを知れば知るほど、どうしてこんなメカニズムがどこにでもある嫌気性菌に必要だったのか、進化の不思議に圧倒される。


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