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12月5日:ガン治療は確実に進んでおり、進み続けなければならない(12月3日号The Lancet掲載論文)

2014年12月5日

我が国でも3人に1人がガンにかかる時代だ。と言っても、実は我が国全体のガン罹患統計はない。我が国では地域ガン登録、院内ガン登録と称して、病院や地域で別々にガン患者さんの登録が行われているが、予後調査を正確に行える体制とは言えない。私自身、大学時代から考えると、6回県をまたいで引っ越ししている事を考えると、ガン登録は国レベルで行うべきなのは明らかだ。これで対ガン10カ年計画を建てようというのも乱暴な話だ。我が国にシンクタンクが育たないのは、おそらくデータを大事にする習慣がなく、その場の思いつきで政策が行われるからだろう。一方以前も紹介したが、英国では国レベルで疾患の発症と予後を追跡するシステムが出来上がっている。今日紹介する英国ガン研究所からの論文は、1971年から2011年の間にイングランドと、ウェールズでガン登録された患者さんたちの予後を追跡した研究で12月3日号のThe Lancetに掲載されている。タイトルは「40 year trends in an index of survival for all cancers combined and survival adjusted for age and sex for each cancer in England and Wales, 1971-2011:a population based study(全てのガンを合わせた生存指標と各年齢、性別に調整した生存率の40年の傾向。イングランドとウェールズの1971−2011年の集団調査)」だ。羨ましいことに770万人の登録患者さんのデータだ。また、1971−2011の40年間というと私自身の大学卒業から引退するまでの期間とほぼ重なり、感慨が深い。論文自体は膨大な統計データで、詳細は割愛して面白いと思った点だけを列挙しておこう。1)生存率(診断後1、5、10年で算出している)はこの40年で着実に伸びている。ガン全体で見たとき、現在では診断後10年生きれる可能性は約50%だ。ただ、これはあくまで生存率で、ガンが完全に治ったわけではない。完治を目指すのが医学の目標になる。2)予後の点から3群に分けることができる。予後の最も良いのは精巣ガンだが、乳がん、前立腺がん、子宮体がん、ホジキン病、黒色腫が含まれる。次が中程度で、これには直腸がん、白血病などが含まれる。そして最後が予後が悪いグループで最悪が膵臓癌、次が肺がん、食道癌、脳腫瘍、胃がんと続く。3)予後のいいグループでは40年で生存率の大幅改善が全ての時点で見られる。しかし、例えば膵臓癌だと1年生存率では確かに改善が見られるが、5年生存率では全く変化がない。医学が総力をあげてチャレンジすべきゴールがはっきりとわかる。4)多くのガンで高齢者の生存率の改善ははかばかしくない。特に、化学療法が必要なガンになると医学の進歩は高齢者には届いていない。しかし標的治療など新しい方法の導入で、オーストラリアやカナダから高齢者のガン治療成績の上昇が報告されており、これからの医学が貢献できる領域だ。5)国の対ガン政策が効果を上げているかも検証できる。詳しく見ると、イングランドとウェールズで対ガン政策導入の時間差が2年あったようだが、1年生存率の差として現れている。6)最後にどのガンで見ても生存率はプラトーに達していない。すなわちまだまだ改善の余地があり、これに医学は答える必要がある。まだまだデータは眠っており、政策に活かせる情報が満載だろう。こんなデータを見ると、本当に我が国の官僚は何を目標にしているのか、暗澹たる気持ちになる。


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