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12月10日:究極の合剤:二兎を追うより三兎を追え(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2014年12月10日

糖尿や高血圧の治療のために、メカニズムの異なる2−3種類の成分を混ぜた配合剤と呼ばれる薬剤が販売されている。もちろん配合剤はこれらの病気に限らず、古くからよく使われてきた。処方や、服用の便宜を測ってのことだろうが、逆に何を服用しているのかが意識されなくなることは問題だと思う。ただ、これらは一つの薬剤に見えても、結局は2−3種類の薬を別々に服用しているのと同じだ。配合剤は合剤とも呼ばれることがあるが、「混」と違って「合」には部分が合わさった効果を超える統合された効果を意味する響きがあり、安易な省略はやめたほうがいいと思う。しかしこの点から言うと、今日紹介するミュンヘン・ヘルムホルツ研究所からの論文は、一つの分子で3種類の薬効を実現する、いわば究極の統合剤についての報告で、Nature Medicineオンライン版に報告された。タイトルは「A rationally designed monomeric peptide triagonist corrects obesity and diabetes in rodents(合理的にデザインされた3つの効果を持つ単一ペプチドはげっ歯類モデルで肥満と糖尿を改善する)」だ。この研究では、いわゆる消化管ホルモンと呼ばれる3つのペプチドを統合させた単一ペプチド合成に挑戦している。すなわち、膵臓α細胞から出るグルカゴン、消化管由来のインシュリン分泌作用のある2種類のインクレチンGLP-1とGIP、この3種類のペプチドの効果をもつ単一のペプチドを合成することがこの研究の目的だった。おそらく進化的にも同じ遺伝子が重複してきたのだろう、3種類のペプチドは並べてみるとよく似ている。しかし、これを一つのペプチドにまとめられるというアイデアはやはり化学者のセンスと言える。おそらく多くの試行錯誤を繰り返したことだろう。最終的に個々の活性でも自然にあるペプチドの活性を超える作用を有する単一ペプチドの合成に成功する。こうしてできた分子は、2種類のインクレチン作用でインシュリン分泌を促進し、グルカゴンで糖代謝を促進する作用を兼ね備えており、また血糖についてはブレーキに加えて、少しアクセル効果が組み込まれたとも言える分子ができたことになる。このペプチドの設計がこの論文の全てなので、詳細は割愛するが、最も驚くのはこのペプチドがそれぞれのシグナルを別々に刺激するよりはるかに優れた抗肥満作用と、抗糖尿作用を有する点だ。おそらくグルカゴンの作用が絶妙にバランスされた作用が実現したからだろうが、肥満マウスを使った実験で、別々の分子ではたかだか3−5%の体重低下が可能な条件で、なんと15%近くの体重減少が達成されている。またインシュリン感受性も改善された総合的抗糖尿作用が見られている。他にもFGF21血中濃度の上昇も、新しいペプチドだけで見られているという予想を超える結果だ。マウスとラットのモデルでこの効果は確認されているため、あとは臨床実験に向けた化学的改良が残っているだけだろう。しかしこれだけ期待以上の効果があると、少し心配になる。ジギタリスとおなじで、体の細胞を酷使してしまったのでは大変だ。幸い、そんなことは百も承知のようで、最後に臨床応用は慎重に症例を選んで進めるべきだと指摘し、プラダー・ウィリー症候群や脂肪肝など、最初の治験に適したと彼らが考えている病名まで明記している。いずれにせよ、本当の意味でのsynthesis、統合•止揚できた薬剤が設計できるとは化学者に脱帽。


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