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12月12日:ユーウィング肉腫(11月9日号Cancer Cell掲載論文)

2014年12月12日

次世代シークエンサーの威力が最もはっきりわかるのがガンの分野だろう。現在急速な勢いでガンのゲノム配列が解読され、2−3年もすればガンを発生させるポテンシャルのある遺伝子の組み合わせに関するリストは完成するのではないだろうか。しかしこのリストはガンを本当に知るための入り口で、その後発症メカニズムを理解するための長い道のりが待っている。実際、ガンの原因遺伝子がわかっても、なぜ病気が起こるか理解できないケースは多い。そんな腫瘍の一つがユーイング肉腫だ。学童期以上の子供達を襲う肉腫で、転移が早く治療が厄介な腫瘍だ。この腫瘍はEWSとFlI1遺伝子が遺伝子転座で合体することで発生することがわかっている。最近になって、腫瘍がいわゆる間葉系幹細胞を起点として発生することもわかってきた。しかし、なぜEWS-FLI1キメラ遺伝子が腫瘍の引き金になるかについて納得いく説明は得られていなかった。私自身も現役最後の10年、間葉系幹細胞やFli1に直接関わる仕事をしていたため、この腫瘍の発生機序には特に興味を持っていた。そんな時、今日紹介するハーバード大学からの論文を読んでなるほどと納得することができた。11月9日号のCancer Cellに掲載されてた論文で、1ヶ月遅れだが是非紹介したいと思う。タイトルは「EWS-FLI1 utilizes divergent chromatin remodeling mechanisms to directly activate or represss enhancer elements in Ewing sarcoma.(EWS-FLI1は様々な染色体再構成のメカニズムを使ってユーウィング肉腫のエンハンサー部位を直接活性化したり抑制したりする)」だ。研究ではまずEWS-FLI1キメラタンパクがゲノムのどこに結合しているかをマッピングし、結合部位の配列、染色体構造をゲノムワイドに調べ、EWS-FLI1が結合した部位の染色体構造が、遺伝子の発現を促進する構造に変わっていることを発見した。言い換えると結合場所にエンハンサー活性が新たに発生している。このエンハンサー部位を詳しく調べると、GGAA塩基配列が繰り返し構造を持つ領域で、そこにEWS-FLI1が結合してp300などエンハンサー分子複合体が形成され、その中のWDR5などの作用で染色体構造が遺伝子発現促進型にリプログラムされていることがわかった。この結果、周りの多くの遺伝子の発現が上昇する。このEWS-FLI1結合部位は、普通の細胞ではエンハンサー部位として働いておらず、EWS-FLI1特異的なエンハンサーとして働いて、腫瘍の異常増殖を引き起こしているという結果だ。一方、FLI1はEtsファミリー分子としての特定の結合部位も持っている。この部位を調べてみると、正常のEtsファミリー分子を追い出し、結果その分子により発現している遺伝子が抑制されていることもわかった。まとめると、EWS-FLI1キメラタンパクは、普通なら遺伝子調節に関わらない部位に勝手に結合してエンハンサーに仕立て上げ、周りの遺伝子の発現を促進する一方、正常Etsファミリー分子をゲノムから追い出して細胞の正常機能に必要な遺伝子の発現を抑えるという驚きの結果だ。言ってみれば悪貨が良貨を駆逐して細胞の中で我が物顔に振舞うようになっている。ここから見えるのは、この分子によって多くの遺伝子発現が変わるという複雑な状況で、本当に治療の標的があるのか少し心配になる。幸いこの研究では、活性化されている遺伝子の中には細胞の増殖に関わるものが多く、新しい治療法開発のチャンスがあることも示唆している。その証明として、このグループはVRK1と呼ばれるリン酸化酵素を取り上げ、この分子を抑制すると肉腫の増殖が落ちることを示している。これが本当か、あるいは気休めかはさらに研究が必要だ。結局、はっきりとした焦点なしに遺伝子発現が促進して細胞が腫瘍化する可能性が示された事になるが、私にとっては十分納得のいくメカニズムの説明が得られたと思っている。多くの分子が動いたとしても、スーパーエンハンサー機能をCDK7を抑制して叩くといった戦略も可能かもしれない。やはり確かな前進だと今後に期待している。


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