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12月16日:悪性黒色腫の根治を目指す(2015年1月12日号Cancer Cell掲載論文)

2014年12月16日

悪性黒色腫(メラノーマ)の半数以上がBRAFと呼ばれるシグナル分子の特定の突然変異によることが明らかになってから、この腫瘍の治療は急速に進んだ。突然変異型のBRAFを標的にした治療、さらにBRAFの下流で働いている分子MEKを標的にした治療のおかげで、これまで治療が困難だったステージのメラノーマも治療が可能になった。しかしメラノーマはしぶとい腫瘍だ。治療を続けるうち、ほとんどの患者さんでこれら標的薬に抵抗する薬剤耐性腫瘍が発生してくる。BRAFとMEKの両方を同時に叩く治療ではより高い効果があるが、それでも1年ぐらいで薬剤耐性の腫瘍細胞が発生し、根治を阻む。標的薬に対する耐性腫瘍の問題はメラノーマだけの問題ではない。ガンのゲノムに基づく標的療法が進展すればするほど、重要な問題になってくる。今日紹介するマンチェスターにある英国癌研究所からの論文は、従来のメラノーマ治療の問題を一挙に解決したと大きな期待がかけられている研究で、2015年1月12日号のCancer Cell誌に掲載された。タイトルは「Paradox-breaking RAF inhibitors that also target src are effective in drug-resistant BRAF mutant melanoma(パラドックスを破るRAF阻害剤はsrcも標的にしており薬剤耐性になったBRAF突然変異メラノーマに効果がある)」だ。この研究のポイントは、タイトルにあるパラドックスを破るRAF阻害剤という言葉で表現されている。変異型BRAFに対する耐性はしばしばRAS突然変異が新たに生じることで獲得される。この時、BRAFで活性化される下流のMEKは標的薬で活性が落ちるのだが、同じ細胞でRASが活性化すると、今度は同じ標的薬がMEKの活性を上げてしまうことがわかってきた。このメカニズムも理解がすすんでおり、BRAFとCRAFの2量体形成を薬剤が促進することが原因だ。この同じ薬剤が、同じシグナル分子を一方では抑制しながら、同時に促進するという現象がパラドックスで、今回開発されたCRAFをBRAFと同時に抑制できる薬剤は、パラドックスを発生させない。さらに新しい薬剤には、耐性のもう一つの原因であるSRC分子の活性化も同時に抑制する効果がある。すなわち、BRAFだけでなく、CRAF,SRCに渡る広い特異性を持つ薬剤だ。広い特異性と聞くと、なるほどと思うのだが、逆に正常分子も阻害して多くの副作用の原因になることが多い。この研究では、1)新しい薬剤が、治療により耐性を獲得したメラノーマに有効か、2)パラドックスを抑えているか、3)広い特異性による副作用がないか、の3点に絞って調べている。結果は有望で、マウスの実験だが長期投与でも目立った副作用はない。また、薬剤耐性を獲得した臨床サンプルの増殖をほぼ完璧に阻害できる。期待通り、これまでの薬剤のようにパラドックスが発生することはない。詳細は割愛するが、読んだところ前臨床は期待通りに終了したという結果だ。論文でもアナウンスされているが、この結果を受けて、来年には第1相臨床試験に進むようだ。臨床試験が期待通りなら、おそらくこの薬剤は従来の標的薬に代わって最初に選択される薬剤になる可能性が高いのではないだろうか。医療経済的な問題もあるだろうが、癌治療の目標は根治だ。この場合、できる限り再発のない薬剤を最初から選ぶことが重要になる。今日紹介した薬剤の最初の治験では、薬剤耐性になったメラノーマが対象になるだろうが、できる限り早い段階でファーストラインの薬剤としての実力を比べて欲しいと思う。製薬業界にとってはしんどい話だろうが、ここは患者さんの側に立った根治を目指す治療確立を目指して競争が続くことを願っている。


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