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12月23日:迷惑にならない死に方(12月18日号Cell誌掲載論文)

2014年12月23日
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高齢者の増加は我が国だけでなく、21世紀地球の課題だが、これはもっぱら経済力に並行して平均寿命が延びることが一番大きな原因だ。こんな当たり前のことを想定せず、年金や介護を設計してきた政府は大慌てで年金制度や税制の手直しをするがうまくいかない。結局多くの高齢者の一番の希望が、「なんとか家族や社会に迷惑にならないように死にたい」になってしまう。同じような死者と生者の関係は細胞の世界にもある。今日紹介するオーストラリア、ウォルターエリザホール研究所からの論文は、周りに迷惑をかけない細胞の死に方についての論文で12月18日号のCell誌に掲載された。タイトルは「Apoptotic caspases supperss mtDNA-induced STING-mediated type I IFN production(アポプトーシスに関わるカスパーゼはミトコンドリアDNAによってSTINGを介するインターフェロン産生を抑える)」だ。この論文の責任著者Kileさんの率いるチームは細胞死について色々面白い論文を出してきている。2007年には核が全くない血小板の寿命も、核のある細胞の細胞死を誘導する仕組みと同じメカニズムで決められていることを示し、完全であろうとなかろうと生体内で機能を持つ限り、細胞が寿命を持つことの重要性を示した。この研究は、細胞死の際、細胞内分子を分解する機能の欠損したマウスを用いて、細胞死が個体にとってなぜ必要かを調べる目的で始まっている。驚いたことに、カスパーゼ9と呼ばれる分子がないと、血液幹細胞の増殖が促進されることを発見した。細胞死が抑制された結果、長生きして細胞が増えるように見えているのではないかと考え、この細胞を普通のマウスに投与して調べると、この死に損ないの細胞が存在するだけで今度は周りの正常な幹細胞も増えることがわかった。すなわち、カスパーゼが抑制された死に損ないの細胞は他の細胞に働きかける因子を出すことが示された。次に、この分子がインターフェロンβであることを突き止める。あとは、様々なノックアウトマウスや、細胞学的手法を用いてカスパーゼが抑制された細胞がなぜインターフェロンを分泌するのかについての分子機構を解明している。まとめると、寿命などで細胞死が始まると、ミトコンドリアの分解が始まる。その時、ミトコンドリアに存在するチトクロームによりApaf1分子を介してカスパーゼ9が活性化し、これが次に他の分解酵素を活性型にして細胞内の分子を完全に分解する。分かりやすく言うと、細胞は死んだ後なんとか自らを始末できるように作られている。ところが、この始末がうまくいかないと、今度はミトコンドリアのDNAがSTINGという分子を介して細胞のインターフェロン産生を促してしまう。その結果、周りの細胞に働きかけ増殖を促す。すなわち、死に損なうと周りに迷惑をかけてしまうという結果だ。もちろん、このインターフェロン産生機構はウィルス感染の際に周りの細胞の反応を誘導して感染を抑えるための機構だ。しかし現代社会に生きる我々が見ると、「細胞が自ら完全に始末できないときに周りの細胞まで巻き込んで迷惑をかけている」と悲しい視点で見てしまう。静かに死ぬことこそが生命の最終目的なようだ。

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