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1月1日:諸々の力(アメリカアカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2015年1月1日
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「もともと生命は、諸々の力が、一握りの、ひょっとしたらたった一つの原型に吹き込まれて始まり、この惑星が永遠に変わる事のない重力法則による回転を繰り返している間に、これほど単純な始まりから、最も美しくすばらしい果てしない形態が進化し、また進化し続けている。とするこの見解には、壮大さがある。」これはダーウィンの種の起源の後書きのそれも最後の文章だ。英語の本文はとても美しい文章で、到底私の訳ではこれを伝えることはできないと諦めている。これはダーウィンの勝利宣言でもあり、敗北宣言でもある。悔しいことに、生命が初めて地球上に生まれる過程については「諸々の力が・・・」としか語れなかった。しかしダーウィンの敗北宣言から150年以上たった今も、私たちは勝利宣言のための糸口さえつかめていない。1年を始めるにあたって、生命が誕生するまでの諸々の力についての研究が紹介したいと思っていたら、チェコ科学アカデミーからの論文がアメリカアカデミー紀要オンライン版に掲載されているのを見つけた。タイトルは「High-energy chemistry of formamide: a unified mechanism of nucleobase formation(フォルムアミドの高エネルギー化学:核酸塩基形成の統一モデル)」だ。生命の出現には生命の成分であるアミノ酸、核酸、脂肪、糖など有機化合物が必要だ。これらを組み合わせて生を「吹き込む」過程は、物理化学を超えた組織化についての科学が必要だが、有機成分の生成過程は物理化学に完全に支配されており、再現可能なはずだと、様々な試みが行われてきた。中でも有名なのが、ミラーの実験で、水素、水、アンモニア、メタンが混じった蒸気に落雷を模した放電を行うと、多くのアミノ酸ができることを報告した(Science,117:528,1953)。驚くことに、2007年、彼の死後当時の実験のサンプルが見つかり、2008年、彼の弟子たちにより新しい機器を使った再調査が行われた。そして最初報告されたより多くのアミノ酸が含まれていたことが発見されたが(Science, 322:404, 2008)、50年後にも使えるよく保存された資料を残している科学者魂については、科学を志すもの全ての範となるだろう。現在ではこの時使われた条件が本当に太古の大気を反映しているか疑問が持たれているが、ほとんどのアミノ酸が生命誕生以前に地球に誕生できたことは間違いがない。前置きが長くなったが、今日紹介するのは40億年前の地球でRNAの構成成分の塩基、すなわちアデニン、グアニン、ウラシル、シトシンを同時合成することが可能か調べた研究だ。実験は大がかりだが、結果は簡単だ。約40億年前には地球はまだ不安定だった宇宙から流星が雨のように降り注いでいたと考えられている。この流星衝突の凄まじいインパクトによって形成されるプラズマが「諸々の力」として全ての核酸塩基を同時に合成できることを示す研究だ。このインパクトを再現するために、プラハにある大規模レーザー光照射施設の高エネルギーレーザーを用いて、2200度のプラズマを発生させている。これまでの研究で、フォルムアミドが存在すれば核酸塩基が作れることは示されてきた。今回の研究でもフォルムアミドを原料として用い、粘土存在下にレーザー照射を行うと全ての核酸塩基が47mg/Lの高収量で得られるという結果だ。作られる中間体なども質量分析で検出され、詳しい化学反応プロセスが示されているが、わざわざ紹介する必要はないだろう。このように「諸々の力」により有機物が生まれる過程は徐々に明らかになっている。次はこの有機物が生物として組織化される有機体論を展開することが必要になる。是非21世紀の若い頭脳がこれに挑戦してくれることを望みたい。この有機体論が完成しないと、惑星探査で有機物を検出したとしても生物の存在を示すかどうかわからないことは心すべきだ。

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