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1月17日:免疫力は鍛えるもの、当たり前の話を証明することの大変さ(1月15日号Cell誌掲載論文)

2015年1月17日

今日は阪神・淡路大震災20周年で、何かふさわしい論文がないか調べてみたが、残念ながら見つからなかった。当時私は京大医学部分子遺伝に在籍しており、私の研究室の大学院生の中には家族が被災して大変な思いをしているのを身近に見ていた。当時は京大を離れてこの神戸に来ることは全く想像してもいなかった。しかし、この20年で医学はどれほど進んだのだろう。私自身はゲノムも含め、人間を対象とする研究が20年で大きく変化した分野の一つだと思う。これは新しいテクノロジーの開発によることも大きいが、やはり人間を調べるという強い意志と、柔軟な思考でこれに迫る様々な個性の研究者がいるおかげだろう。今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、一卵性と、二卵性双生児を集めて免疫系の遺伝性要因を探った研究で1月15日号のCell誌に掲載されている。タイトルは「Variation in the human immune system is largely driven by non-heritable influencees(人の免疫システムの多様性は非遺伝的要因により決まっている)」だ。この研究の責任著者Mark DavisはT細胞受容体遺伝子クローニングを初めて行った一人で、熾烈な競争を遺伝子サブトラクションという当時免疫学ではまだ馴染みのなかった技術を駆使して遺伝子クローニングを行った、柔軟な思考のできる研究者だ。風の便りに、彼が現在ヒトの免疫系を理解しようと研究していることを聞いたが、その一環がこの論文だと納得した。研究では、8歳から82歳までの双生児を集め200項目を越す免疫系の指標を測定し、遺伝的に同じ一卵性双生児間、遺伝的違いがある二卵性双生児間での値を比べることで、計算により遺伝性の程度をはじき出している。結果もタイトルにある通り、また予想通り、健康時の免疫状態にあまり遺伝性はないという結論だ。しかし集められたデータはなかなか興味がある。例えば免疫に関わる細胞の数やサイトカインレベルにはほとんど遺伝的性はないが、例えばCD27陽性細胞やCD4T細胞の数、あるいはIL2やIL7のレベルも遺伝性がある。このようなデータを手始めに、ヒト免疫システムの恒常性を実験動物と比べることは重要だろう。他にも、免疫系全体をネットワークとして捉える試みも行い、このネットワークに及ぼす遺伝要因について調べるアルゴリズムも提案している。このネットワーク解析を、遺伝要因のはっきりした免疫疾患の解析に当てはめて解析することで、新しいことが明らかになるかもしれないと期待する。研究結果で一番面白かったのは、サイトメガロウィルス抗体値が大きく異なる16人の一卵性双生児の免疫状態を調べると、多くの免疫指標に大きな変化が起こっており、遷延する感染が私たちの体に大きな影響を及ぼすことがわかったことだ。免疫抑制治療でいつも問題になるこのウィルスに一旦感染すると、それを抑えるために常に大きな努力を私たちは払っているようだ。私たちはこんな病原体を勝手に弱毒と名付けているが、免疫システムにとっては大変な相手のようだ。この免疫ネットワーク状態を調べて、日和見感染の可能性が予測できるなら、臨床にも重要だと思う。話としてはこれだけだが、ヒト免疫システムを理解したいという強い意志と、デザイン自体柔軟な思考を伺わせ、さすがMark Davisと思った。我が国でシステムバイオロジーというと、生物現象を予想可能な力学に落とし込もうという方向性が強いが、部分が全体を作る仕方を歴史として分析するというのも伝統的システムバイオロジーだと思う。


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