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1月19日:宇宙では頭に血がのぼる(Journal of Physiologyオンライン版掲載論文)

2015年1月19日
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昨日に続いて地上の世界を離れた話題だ。昨日紹介した深海とは打って変わり、今度は宇宙飛行士の循環状態の話だ。日本人も含め、今や長期間宇宙に滞在するのは当たり前になってきた。スペースシャトルが引退し、アメリカでさえ宇宙飛行士の運搬はロシアのソユーズに頼らざるを得ない。おのずと滞在期間が伸びるはずだ。今日紹介するNASAとなぜかコペンハーゲン大学という不思議な組み合わせのグループから発表された論文は、長期滞在中の宇宙飛行士の血液循環状態について調べた研究でJournal of Physiologyオンライン版に掲載された。タイトルは「Fluid shifts, vasodilatation and ambulatory blood pressure reduction during long duration spaceflight(長期宇宙滞在による体液変化及び血管拡張と活動中の血圧低下)」だ。研究では、24時間血圧測定、デンマーク製の(この機械が重要でおそらくデンマークとNASAという不思議な取り合わせの理由だろう)宇宙用に開発された呼吸ガスを使って心拍出量を計測する装置、尿の量や電解質測定、血液検査によるカテコラミン測定による交感神経、副交感神経刺激状態の測定を行い、地上なら下半身に溜まっている体液の上半身への移行を含む様々な循環状態を測定している。今回研究に参加したのは8人の宇宙飛行士で、宇宙滞在85日目、192日目で測定し、地上で測ったデータと比べている。面白いことに、今回参加した8人のうち2人が高血圧治療を受けており、2人は高脂血症に対するスタチンを服用している。宇宙飛行士といっても生活習慣病を持つ普通の人のようだ。もちろん同じような研究はこれまでも何回も行われている。ただ、新しいデンマーク製の機器を用いてより詳しい検査をしている点と、長期フライト中2回に分けてデータを取っている点だ。結果だが、ちいさな違いは別にして、おおむねこれまでの結果と変わらないようだ。まず、収縮期、拡張期血圧がともに10mmg以上低下する。一方、心拍数は変わらない。そして今回の研究の目玉は拍出量がなんと30−40%も上昇することだ。そして、この状態が飛行中特に調整されることなく続いている。これらの変化の程度が、従来の研究から予想される以上に大きいことも強調されている。これらの結果から、末梢の血管抵抗が30%以上低下、すなわち血管が拡張していることが想定される。しかし、心拍数や血中のカテコラミンからは自律神経系は状態を調整しようと働いていないようだ。結局、なぜこの現象が続くかは本当のところよくわからないというのが結論だ。私たちは地球の重力を前提として進化してきたため、重力に対する調節は当たり前のことだ。とすると、今後宇宙飛行士の研究から、私たちの知らなかった全く新しい生理メカニズムが明らかにされるかもしれない。いずれにしても、宇宙滞在中のすべての人間は間違いなく頭に血が上っていることは確かだ。

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