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1月27日:大きな勘違い(1月29日号Cell誌掲載論文)

2015年1月27日

もっとも古くから知られているリン酸化酵素の一つにPKCがある。神戸大学の西塚・高井らによって精製されて以降、おそらく何千もの論文がこの分子について発表されたはずだ。このため、私たちはPKCのことならなんでもわかっていると思ってしまう。特にガンについては発がんプロモーターとして知られたフォルボルエステルがPKCを活性化することから、PKCはガンの増殖を促進するという常識が確立する。その後ガンのゲノム研究が進み、多くのガンでPKCの突然変異が発見された。これを見て私たちは「なるほど、PKCが突然変異を起こすと、多くのリン酸化酵素と同じでガン遺伝子として働くのか」と納得してしまう。幸い科学では、こんな時ドグマが本当かどうか確かめようとする疑い深い人が必ず現れる。今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、常識は疑えという教えを地で行く研究で、1月29日豪のCell誌に掲載された。当然だと思う。タイトルは「Cancer-associated protein kinase C mutations reveal kinase’s role as tumor supperssor(ガンで見られるPKC 突然変異はPKCによるリン酸化がガン抑制に働いていることを明らかにした)」だ。常識といったが、遺伝子導入でガンができる一部のPKC(9種類の異なるPKCが存在する)を除いては、本当にPKCが発ガン遺伝子として働いているのかは明確ではなかったようだ。そこでこの研究では初心に戻って、様々なガンで同定されたPKCの突然変異が、実際にPKC活性を亢進させているのかどうか生化学的に調べるところから始めている。PKCの様々な場所に見つかった突然変異のPKC活性への影響を全部で46種類調べたところ、驚くことに、全て活性化ではなく、機能が消失、あるいは低下している突然変異であることがわかった。さらに、がん細胞を使った細胞レベルの実験から、PKCの活性が低下するとがん細胞の増殖が亢進し、逆にPKCの活性が亢進するとガンの増殖が抑制されることを示している。すなわち、PKCは予想に反してガン遺伝子ではなく、ガン抑制遺伝子として重要な役割を演じていることが明らかにされたことになる。論文で明確に示されているのはこれだけで、PKCがガン抑制遺伝子として働くメカニズムについては幾つかの可能性が示されるにとどまっている。例えば発ガンと密接に関わることが明らかなp53の活性をWTというタンパク質を通して高めることでガンを抑制する可能性や、KRASガン遺伝子の活性をリン酸化を通して直接抑える可能性だ。実際p53やrasの突然変異が、PKC機能が低下するガンで多いことなど、様々な説得材料が示されると、なるほど常識は間違っていたと納得する。この結果を知った上で、ガンに対してPKC阻害剤の治験が行われ、散々な結果だったことを聞くと、特に患者さんに使うときにはなんでも疑ってかかることの大事さを再認識した。重要な論文だと思う。


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