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1月28日:乾きのメカニズム(Natureオンライン版掲載論文)

2015年1月28日

これまで何回も紹介した、光を使って特定の脳細胞を刺激することを可能にした光遺伝学によって、生理学と解剖学の統合は全く新しいレベルに到達したようだ。研究を見ていると、特に行動や情動に関わる神経について、これまで証明が難しかったことが、続々わかってきたという印象を受ける。今日紹介するコロンビア大学からの論文は、渇きの感覚に応じて水を飲むという行動に関わる神経細胞の特定を光遺伝学で行った研究で、Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「Thirst driving and suppressing signals encoded by distinct neural populations in the brain (渇きを誘導するシグナルと抑制するシグナルは脳の異なる細胞によって調節されている)」だ。この手法を使う研究は、まず調べたい過程に関わる神経の特定、その細胞特異的分子マーカーの特定、分子マーカー遺伝子座の操作、そして光を当てた時の行動観察と続く。この研究ではまず、渇きに反応する神経領域CVO(脳室周囲にある神経器官)のうちで渇きに反応する神経を特定し、その神経がCamKIIという分子を発現することを特定している。次に、このCamKII遺伝子座にCreという遺伝子を導入する。最後に、CVOをめがけて光に反応してチャネルが開くチャンネルロドプシン遺伝子をアデノウィルスベクターで注入すると、Creを発現している細胞だけでチャンネルロドプシンが発現し、光を当てると興奮するようになる。さて、こうして用意したマウスは、光を当てると、渇きとは無関係に水を飲む。なんと、体重の8%ぐらいは平気で飲むようになる。ところが、液体だったらなんでも飲むわけではない。水とは違う苦みや蜂蜜には光を当てても飛びつかない。また、水の中に強い苦みや濃い濃度の食塩が入っていると水と区別して飲まない。したがって、この神経が刺激されると、ともかく水に近いものを選択的に飲むようになる。この研究では、CamKII陽性細胞以外に、同じ領域に渇きで活性化される2種類の神経細胞を特定している。一つは、ETV-1遺伝子を発現しており、もう一つはVgat分子を発現している。この神経の機能を調べるため、今度はそれぞれの細胞にCreを導入して、そこにチャンネルロドプシンベクターを注入して、反応を調べた。このうちETV-1の発現はCamKIIと重なっており、この細胞を刺激してもマウスは水を飲むので、渇きに刺激される水を飲む行動を調節するのはETV-1/CamKII陽性細胞であると結論している。一方Vgat細胞を刺激すると、今度は水を飲む行動が極端に抑制される。しかし、塩や砂糖に対しては普通に反応するので、この神経は渇きに反応して、その感覚を抑える働きがあるのだろうと結論している。もちろんこの研究で私たちの渇きの全てがわかったわけではない。実際、水だけを選んで飲むというのはかなり複雑な反応だ。イオン濃度のセンサーから、行動開始、行動終了までまだまだ複雑な回路が想定される。しかし、光遺伝学はこの回路を全て明らかにするだろうと期待させるテクノロジーだ。だたもう少しすると大型動物、そしてヒトに応用した論文が出そうな気がする。今から身構えつつ期待しよう。


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