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2月11日:メトフォルミンの作用機序(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2015年2月11日
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年頭、連携先のメドエッジのホームページに、ガンが免疫機能によって撲滅できる日が近づいているのではと夢を語った。これは昨年発表されたCAR (chimeric antibody receptor)技術と、PD1, PDL1, CTLA4などのガンに対する免疫反応を弱める機構を遮断する抗体治療に関する論文の結果が極めて印象的で、期待を与えてくれたからだ。ただ正直に言うと、抗体治療についてはどうしても他の懸念が頭をよぎる。コストだ。多くのガンに効くことが明らかになった場合、一回数十万円する抗体を長期間打ち続けることが経済的に可能か、なかなか難しい問題だと感じていた。もちろん、CTLA4は複雑だが、PD1の下流にあるシグナルはフォスファターゼSHP2であることがわかっており、安価な化合物で置き換わる可能性はある。しかしフォスファターゼの場合、ガンの増殖キナーゼを活性化してしまわないかなどと考えていたところ、長崎大の知り合いから新しい考えの論文を紹介された。岡山大鵜殿さんたちの研究で、米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Immune-mediated antitumor effect by type 2 diabetes drug, metformin(2型糖尿病薬メトフォルミンによるガン免疫)」だ。メトフォルミンはビグアニド系の抗糖尿病薬で、スルフォニルウレア系薬剤とともに私が学生の時から存在している歴史のある薬剤だ。最近になって、その抗がん作用が疫学的研究から明らかにされ、急に注目されだした。昨日もメドエッジではカイザーパーマネンテからのメトフェルミンの予防効果に関する論文を紹介していた。ただ、効果の背景については、IGF抑制などの説はあるが、はっきりしていなかった。今回、鵜殿さんたちはモデル動物を使って、メトフォルミンの作用の一つが、ガン障害性T細胞の活性を増強することにあることを見出した。研究では、まずメトフォルミンの抗がん作用がガンの周りに浸潤するCD8T細胞の活性増強を介していることを発見し、次にこのキラー活性増強のメカニズムが、T細胞がPD1を始めとする様々な抑制シグナルのせいで細胞死に陥るのを阻害することによることを示している。他にも、この効果により、PD1陰性の様々なサイトカインを同時に出せるT細胞がガン局所で増加することや、シグナルにAMPKからmTORを介して伝わっていることなどを調べているが、やはり最も重要なのはメトフォルミンがガン局所のキラーT細胞を維持する効果があるという発見だろう。これはモデル実験での話だが、すでに広く使用されているこの薬剤をテストすることは簡単だ。実際コストで言えばメトフォルミンは抗体治療の対極にある。おそらく一ヶ月の薬代は自分で全て払っても数千円までだろう。一方、抗PD1抗体は一本が70万円を越していると思う。もちろんこの論文でヒトのガンへのメトフォルミンの効果を結論できない。ただ、作用機序は違っても、標的になる過程はキラーT細胞の活性増強と同じだ。是非患者の立場に立って、多くの医療機関が自主的に、抗体との比較試験や併用試験を進めて欲しいと思う。残念ながら、岡山大学ではプレス発表していないようで、とするとメディアの目にも止まらない。我が国の仕事はわざわざ紹介することもないと、あまり取り上げなかったが、今回は紹介できてよかった。

  1. 丸田 美津子 より:

    私の姉は糖尿病のためメトフォルミンを永年服用していますが1年前から肺に影が見つかり今年、肺の腺ガンと分りました。メトフォルミンの副作用かと調べていてこの記事が出てきましたのでお知らせします。もしメトフォルミンを1日3回を増やすことでがん細胞が減少するようでしたらお知らせ下さい。

    1. nishikawa より:

      メトフォルミンも、PD-1も免疫が成立している場合にだけ効くはずで、癌に直接影響がある薬ではないです。ただ、免疫が成立しているかどうか確かめるのは、簡単ではありません。あまり役に立たないコメントで、申し訳ありません。

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