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2月16日:ガン細胞が標的薬から逃れるための一つのメカニズム(Nature Geneticsオンライン版掲載論文)

2015年2月16日

これまで紹介してきたように、RAFと呼ばれるキナーゼ分子の突然変異に起因する腫瘍に対する薬剤が成功を収めている。最初RAF突然変異が半数に見られる悪性骨髄腫から始め、現在では肺がんの一部など徐々に対象が広がっている。ただ、成功の陰には常に問題がある。同じ突然変異を持つのに、一部のガンでは薬剤の効きにくい細胞が存在し、治療を妨げる。なぜ同じ突然変異で起こったガンにこのような差があるのかを調べ、新しい薬剤を開発する動きが加速している。今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文はこのような試みの一つで、Nature Geneticsオンライン版に掲載された。タイトルは「The Hippo effector YAP promotes resistance to RAF- and MEK-targeted cancer therapyes (Hippo分子のエフェクター分子YAPはRAFやMEKに対する標的治療抵抗性を阻害する)」だ。研究は一直線といった感じだ。まずRAF突然変異を持つ肺がん細胞株に、様々な遺伝子の機能を抑えるshRNAをコードするレトロウィルスベクターを感染させ、標的薬で処理する。もし標的薬の効果を高めるshRNAが存在すれば、細胞は死滅するので、このベクターは生き残った細胞に維持されている確率は少ない。この方法で真っ先に消えてしまったshRNAがYAPという遺伝子を抑制するshRNAだった。YAP遺伝子は転写因子で、Hippoと呼ばれるシグナル経路によりリン酸化されると核へ移行できず、不活化される。実際、この論文以前から、YAPが薬剤抵抗性の原因になることを報告する論文が続いていたため、おそらくこのグループは本命に当たったと確信したはずだ。あとは、この分子がRAFだけでなく、MEKが関わるシグナル経路の活性化による多くのガン(厄介なRASの突然変異も含む)の薬剤耐性の張本人であることを示している。また、実際の臨床例でこの分子の発現量と、標的薬の効果が逆相関することも示している。その上で、YAPにより活性化され抵抗性に関わるエフェクター分子がBCL2L1であることを突き止め、この分子を抑制すると同じように薬剤への感受性が上がることを示している。この論文が主張するようにBCL2L1がYAPの効果の全てかどうかはわからない。事実、昨年発表された論文では、RASとYAPが協調して上皮細胞の形態変化を誘導することで、ガンの生存が促進することを報告している(Cell 158, 1–14, July 3, 2014)。しかし、多くのガンでMEKシグナルが関わり、またYAPが抑制されても副作用はそれほど強くないと予想できるため、間違いなくHippo-YAP経路は今後重要なガン治療の標的になっていくだろう。期待したい。


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