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2月17日:過去の神経活動の指紋を採取する(2月13日号Science掲載論文)

2015年2月17日

私が学生時代、神経活動の記録というと、挿入した電極による細胞内外の電流の記録だった。細胞内のカルシウム濃度により蛍光を発するカルシウムセンサーの登場はこの分野を大きく変化させた。細胞内に生じるカルシウム濃度の変化をリアルタイムに記録することができ、記録が単独細胞から領域へと広がった。しかし研究者の欲望は尽きない。どの方法で検出しようと、神経活動は極めて短い期間で終わってしまう。もちろんモニターし続けることで、後からどの細胞がいつ興奮したかを再現できるが、動き回る動物では長期のモニタリングは至難の技だ。この頃の刑事映画では、刑事がビデオモニターを徹夜で調べるシーンが出てくるが、同じことで、もし一定時間内の活動が積算されればこの苦労はないだろう。もしできるなら、一定期間に興奮した細胞を後から指紋を採取するように調べることはできないのか?この課題に挑戦したのが、今日紹介するシカゴ大学からの論文で2月13日号のScienceに掲載された。タイトルは「Labeling of active neural circuits in vivo with designed calcium integrators(デザインされたカルシウム積算系を使って神経回路活動を生体内で標識する)」だ。これまで、一定の波長の光を当てると緑の光が赤に不可逆的に変わるEos2FPと呼ばれるサンゴの蛍光物質があった。このグループは、この蛍光分子を改変して、高いカルシウム濃度環境だけで赤への変化が起こるようにした。このような色素をデザインしたことがこの研究のすべてだ。この色素を発現する細胞では、興奮してカルシウム濃度が高まった時に光が当たると、その後はずっと赤く光り続ける。すなわち、興奮した細胞を後から特定できるようになる。論文では様々な実験系を使って、この色素がこの分野を大きく変える可能性があることを示している。例えば幼生ゼブラフィッシュのすべての脳細胞がこの色素を発現するようにして、光を当てながら自由に泳がせると、前部の皮質のみが興奮していたことがわかる。幼生では泳いでいても視覚野の活動はない。あるいは、ネズミに動く格子模様を提示して、異なる動きの向きに反応する別々の神経細胞を特定することもできる。他にも、光遺伝学を使って特定の細胞を刺激し、それに刺激されて起こる神経回路も視覚化できる。これまでの方法と比べると、1)動物を拘束することなく、神経活動を調べることができる、2)脳全体の活動を後からマッピングできる、3)永久的変化として記録でき、組織を固定したあとでもその結果を見ることができる、4)興奮した細胞だけをセルソーターで純化できる。など、不可能だったことが可能になった。今後、さらなる改変が加えられ、神経活動にとどまらず様々な細胞の変化を積算して調べる新しい方法へと発展するだろう。この分野の進展に目を離せない。


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