AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 3月12日:画期的止血法の開発?(3月10日号Science Translational Medicine掲載論文)

3月12日:画期的止血法の開発?(3月10日号Science Translational Medicine掲載論文)

2015年3月12日

銃創・刺創など外傷性の出血に対しては、圧迫などで血流を抑え、輸液で循環血流量を維持しながら、早期に手術処置を行う必要がある。ただ、例えば先の震災や、大きな事故などでは、手術をする術者の手が足りない事が多い。こんな場合、少々の傷なら、もともと備わっている止血機能を高めることで、多くの人が救える可能性がある。これを達成するため、人工的血小板で止血を高める方法と、凝固系を促進し傷口のフィブリン形成を高める方法の2種類の方法が開発されている。今日紹介するワシントン大学からの論文はフィブリン塊形成を高める新しいペプチドについての研究で3月10日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「A synthetic fibrin cross-linking polymer for modulating clot propertyes and inducing hemostasis (フィブリン塊の性質を変化させ止血を誘導するフィブリン分子の合成架橋ポリマー)」だ。この研究はフィブリンに特異的に結合するペプチドをスペーサーでつないで、フィブリンを架橋する能力を持つように設計した水溶性ポリマーが、実際に自然のフィブリン塊形成を高め、またできたフィブリン塊の止血能力を高るか確認する、まさにトランスレーショナル研究だ。この方法で問題になるのは、フィブリノーゲンがトロンビンで切られてフィブリンができるまでは架橋材は働かないことを確認すること、及び大きなポリマーなので腎毒性などがないか調べることだ。試験管内の予備研究で、フィブリンだけに結合すること、フィブリン塊の強度を高め、隙間を減らすことなどを確認した後、いよいよラットを用いて、外傷性の出血を止める実験を行っている。実験ではラット大腿動脈に3ミリの切開を入れてまず圧迫止血なしに15分出血させ、その後生理食塩水を点滴して血液量を維持する条件で、ラットの状態を観察している。何もしないと、1時間程度でラットは出血死する。生理的フィブリン架橋材の第8因子を出血が始まった時に注射すると25%ぐらいは助かる。一方、新しいPolyStatと名付けられた架橋材を注射するグループは出血が止まり、全例生存するという画期的な結果だ。様々なテストで、このフィブリン塊が栓溶作用にも強く安定していることが示されている。さらに、副作用もほとんど認められず、注射後1時間ぐらいはクレアチニンが上昇し確かに腎毒性は見られるが、元に戻るようだ。ただ、ラットの実験だけでは手放しでは喜べない。もっと大型の動物で、外傷の種類も変えて適用を調べることが必要だろう。しかし、事故が起こってすぐに注射をしておけば手術までの時間が稼げるなら、これは大きな展開だ。AED並みに普及するかもしれない。この場合、静脈注射ぐらいは医師や看護婦以外もできるように学校で訓練が行われるかもしれない。いやおそらく、自動静脈注射機が開発されること必至だろう。ニーズはどこにでもある。問題は、それに気づかないことだ。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*