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3月17日:ゲノムを読み解く(4月9日号Cell掲載論文)

2015年3月17日

ある病気の患者さんと正常人のゲノムを比べて、病気と一塩基変異(SNP)などの遺伝子変異を相関させる研究が、現在我が国でも普及が始まった個人ゲノム検査サービスにつながっている。しかし正直なところ、結論はともかく、SNP検査の統計学だけが結果として示されたSNP論文を読むのはあまり面白いものではない。おいおい結論だけ拾うことになって、しっかり論文を読んだ記憶がない。この理由は、ゲノムと病気の間にある複雑な過程が、SNP論文では飛んでしまっているからだ。この中間を埋める努力が今日紹介する米国国立衛生研究所と英国キングスカレッジからの論文で、4月9日掲載発行予定のCellに掲載された。タイトルは「The genetic architecture of the human immune system: a bioresource for autoimmuneity and disease pathogensis(ヒト免疫システムの遺伝的構築:自己免疫と疾患病院のデータベース)」だ。この研究では、669組の双子について、ゲノム全体にわたるSNP検査、ほぼ80000にも及ぶ免疫に関わる細胞の種類を集積することが目的だ。80000種類というのは多いように思うが、例えばHIV感染の指標として用いられるCD4T細胞でも、もちろん発現しているCD4分子のレベルだけでなく、様々な表面分子で細かく細分できる。例えば、CD25を発現するCD4T細胞は免疫抑制機能があり、またガンの治療標的として注目されているPD1は活性化されたCD8T細胞に発現してくる。研究では現在得られる限りの指標を用いて、リンパ球や白血球を細分し、その数や表面上の分子の発現レベルなどについてのデータを集めている。重要なのは、この8万にものぼる指標をそのままSNPと相関させるのではなく、双生児を調べることで、それぞれの指標が遺伝的性質かどうかを調べ、これにより遺伝性が確認された151の性質のみSNP検査と相関させている点だ。今年1月7日にスタンフォード大学から発表された免疫系指標のほとんどは遺伝性がないことを示す双生児研究を紹介したが、8万指標調べてようやく151の遺伝的な性質が見つかるという今回の結果もそれを裏付ける。しかし151とはいえ、遺伝性が確認された指標が見つかったことは重要だ。そしてこの151の性質をSNP検査結果と相関させると、241種類のSNPが見つかってきたという結果だ。この研究のゴールは、このようなデータベースの構築で、個々の性質につての詳しい検討ではないので、私も詳細を紹介するのはやめておくが、何が可能か例を挙げておこう。例えば様々な細胞でのCD27発現はFcγ2a受容体の多型と相関すると同時に川崎病や腸炎など様々な病気と相関する。あるいは、NK細胞の表面分子をコードする遺伝子の多型は、予想通りNK細胞のうちCD158を発現するセットの数と相関し、同じ多型がベーチェット病とも相関するという結果だ。確かに、ゲノムと病気をつなぐ中間段階のデータが集まっていることを実感する。また、論文を読むのも苦痛は全くない。ただ実際はもっと面白いデータが集まっているはずだ。すなわち、この研究ではただ双生児を集めただけではない。40−70歳の双生児、すなわちそれまでの様々なデータが集まったコホート研究だ。今後このデータと他のデータとの相関を探すのが面白い。また面白い仮説が浮かんだら、このデータと遊ぶだけで大発見が生まれるかもしれない。集まったゲノムデータを読み解く時、ただ統計学だけに頼らず、さらに必要なデータが何かを構想する21世紀的視点を持った研究だと思う。我が国もある時までGWASやSNP研究が活発に行われていた。しかしこのような21世紀的視点のある仕事は影を潜めている。再建が必要だと思う。


  1. 橋爪良信 より:

    西川先生、
    読んでオシマイの研究から如何に疾患ターゲットの同定とウェットスクリーニングまで橋渡しをするか?
    どのようにテコ入れすれば動くのか、取り組みを始めたところです。
    橋爪

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