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3月23日:ヒト化マウスをガン治療に使う(Nature Biotechnologyオンライン版掲載論文)

2015年3月23日

発生や組織の維持に必要な遺伝子をヒトの遺伝子で置き換え、動物の体の中で人の細胞や組織を作らせ、それを移植治療に用いようとするヒト化動物プロジェクトが世界中で進んでいる。中でも、抗体遺伝子やT細胞受容体遺伝子をヒト遺伝子で置き換えたマウスは、実用化に近いところまできた。特に、人型の抗体を作るマウスから得られた抗体は第2相治験まで進んでいるのではないだろうか。一方遅れていたT細胞の方も、抗原特異性を操作したT細胞移植によりガンを根治する可能性が示されてから、がぜん研究がスパートしているようだ。今日紹介するドイツ ベルリン マックスデルブリュックセンターからの論文はこの流れの研究を代表すると思う。タイトルは「Identification of human T-cell receptors with optimal affinity to cancer antigens using antigen-negative humanized mice (ガン抗原を持たないヒト化マウスを用いて、ガン抗原に対するT細胞受容体を同定する)」で、Nature Biotechnologyオンライン版に掲載された。指摘される前に明かしておくと、このグループを率いるThomas Blankensteinは私の留学時代からの友人だ。その意味で、「Thomas、よくやっている」という印象だ。さて、2010年このグループはヒトのクラス1抗原とT細胞受容体遺伝子が全てヒトの遺伝子に置き換わったマウスを作成し、Nature Mecdicineに報告している(Nature Medicine, 16:1029,2010)。このマウスでのT細胞反応は全てこのクラス1抗原をコンテクストし、導入してあるヒトT細胞受容体レパーートリーから選ばれる。

 さて、ガン抗原に対してキラーT細胞がうまく成立するとガンが根治できることはわかってきた。ただこれまでのワクチン療法は、最終効果が予想できない試行錯誤の側面が強かった。また免疫を高めるPD1やCTLA4療法も免疫反応が成立していないと役に立たない。これを解決するため、ガン抗原に対して最適の結合活性を持つT細胞受容体を見つけてその受容体を持つT細胞でガンを殺せないかと考えるのは当然だ。ただ、言うは易く行うは難しで、最適T細胞を取り出すのはうまくいっていなかった。この研究の目的は、T細胞反応がヒト化したマウスを用いて、メラノーマで最初発現が発見された胎児性の分子MAGEA-1に最適の反応を示すT細胞受容体を見つけることだ。MAGEA-1は精巣以外の正常組織では全く発現がないが、多くのガンで発現が見られる。したがって、これを抗原として用いることで、多くのガンに対するキラーT細胞治療が可能になる可能性がある。ただ、胎児組織や精巣で発現していると免疫寛容が成立しているため、多くの胎児性ガン抗原に対するT細胞反応は弱い。ところがマウスMAGEA-1はヒトの分子とアミノ酸配列が異なるため、寛容は成立していない。したがって、人型のペプチドでこのヒト化したマウスを免疫すると、もっとも反応性の強いヒトT細胞受容体レパートリーを単離できるはずだ。詳しくは述べないが、この論文は予想通りこのマウスを用いると最適T細胞受容体を単離することが可能で、このT細胞受容体を導入したヒトT細胞は、この抗原を発現しているガンにだけ反応し、マウスモデルでほぼ根治が可能であることを示している。さらに、従来の方法で単離されたT細胞受容体と比べた時、ヒト化マウスから単離したT細胞受容体ははるかに優れていることも示し、このシステムの有用性を強調している。もちろんまだ概念が証明されたという段階で、実際の応用には、様々なクラス1抗原を持つマウス(少なくとも200種類は必要だろう)、MAGEA-1以外の他のガン抗原の特定などがさらに必要だろう。ただ、ひいき目なしに方向性は見えたと思う。もし根治が可能なら、余命を延ばすだけの治療と比べると優位性は高い。Thomasならクラス1抗原の組み合わせを変え、着々使えるT細胞受容体遺伝子セットを準備していることだろう。私と同じクラス1抗原を持ったマウスも早く作ってと今度頼んでおこう。


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