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4月2日:生体腎移植を拡大することは可能か(American Journal of Transplantation掲載論文)

2015年4月2日

NPOをスタートする前から懇意にしている方に、兵庫県臓器移植推進協議会の川瀬さんがおられる。自らも腎臓移植を受けられ、我が国で臓器移植を進めるため、(失礼を承知で正直に気持ちを述べると)老体に鞭打って地道だが精力的に活動を続けておられる。10月に一緒にニコニコ動画を企画した時、他の国での腎移植の状況を是非調べてくれるよう頼まれ、調べると約束した。その後約束が果たせず今まで来てしまったが、The American Journal of Transplantationに掲載された会議のレポートを読んで、少しは約束が果たせる気持ちになった。この論文は主に腎臓移植のドナー不足対策を議論するために2014年夏に行われたシカゴ会議での議論を紹介するものだが、読んでみるとアメリカですら腎臓のドナー不足が深刻な問題になっているようだ。アメリカでは年間17000件の腎移植が行われており、我が国の10倍に当たるが、それでも移植件数の5倍の数が手術を待っており、平均で5年の待機年数になっている。また、待機中に亡くなる患者さんは4000人に達するようだ。そのため、海外にドナーを求める臓器売買も問題になっている。実際我が国でも腎臓移植でグーグル検索すると、最初に海外での臓器移植斡旋業者のサイトが上がってくる。アメリカの腎移植の3分の2は死体からで、我が国では8割以上を占める生体腎移植は3分の1に止まっている。それでも5000件は生体腎移植が行えていることを考え、死体腎移植数を増加させられない現状で、生体腎移植を増やすためには何をなすべきか議論が行われたようだ。とはいえ、生体腎移植のほとんどを占める肉親や親戚からの移植のように明確なインセンティブのない場合、臓器売買以外に親族以外からの生体腎移植を増やすための方策を見つけることは簡単ではない。議論の結果、1)アメリカでは臓器売買は行わない、2)ドナーとして手術を受け、リハビリをするための費用、及び休業補償は提供できるようにする、3)現在ある生体腎移植相談窓口を拡張し、このような補償をカバーできる財団にする、4)ドナーになることによる健康障害を徹底的に調査公表する、などがすぐに可能な対策として合意されている。ただ、これだけでは解決に程遠いことも理解されている。可能なアイデアとして、ドナーになった場合、友人や恋人といった関係者の移植待ちの順番をトップに移動させることのできるイスラエルの例などが議論されたようだ。ただこれ以外に状況を大きく変えるアイデアは出ていない。どれだけ安全で、将来の健康が保証されても、体にメスを入れる危険を冒して、あかの他人に腎臓を提供する人を先進国で見つけるのはほとんど不可能だろう。結局、一定の条件を課して、法的にも倫理的にも需要可能な臓器売買を認めるしか解決法はないと思う。2008年岩波書店の雑誌「科学」に、私はイランの腎移植についてレポートを書いている。経済制裁の続くイランで、透析を行うことはコスト面でほとんど不可能だ。したがって、国と民間組織が一体となって臓器売買を合法化し、移植待ちの全くないシステムを作り上げた。この時もっとも重視されたのが、レシピエントになれるかについて貧富の差をが影響ないようにすることで、経済的苦境にある人から臓器を買うという点は認められた。この会議でもおそらくこのような例は討議されたはずだ。その上で、生体腎移植を促進するための小さな団体を作って様々な可能性を実験的に試そうという踏み込んだところまで議論している。いずれにせよ、現在の患者さんと医師だけの組織をもっとオープンにし、一般の方が参加できる組織にする必要がある。我が国やアメリカの状況を考えると、イラン型の仕組みを導入することはほとんど不可能だと私は思うが、医師のイニシアチブでタブーを恐れず、可能性を議論する態度は我が国も見習う必要があるだろう。川瀬さんたちとも改めて議論を始めてみたいと思った。


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