AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 4月3日:新しい道を探す時の脳の働き(4月8日号Cell掲載論文)

4月3日:新しい道を探す時の脳の働き(4月8日号Cell掲載論文)

2015年4月3日

想いのこもった論文はIntroductionを読むのが面白い。以前ここで紹介した媚薬としてのオキシトシンの作用を報告した論文は(http://aasj.jp/news/watch/780)、「愛と変わることのないロマンチックな絆は深い喜びと快楽の高揚をもたらしてくれると同時に、いったん破綻すると、深い悲しみと絶望に突き落とされる」という出だしで始まっていた。今日紹介する論文はロマンチックではないが、著者が明らかにしたいことが日常の風景として次のように描かれている。「ニューヨークの地下鉄の駅でどちらが北か知りたい時を想像してください。まずほとんどの場合あなたは方向を教えてくれる出口のサインを探すでしょう。これは騒々しい地下鉄駅で他のシグナルを全て無視して一つのことに集中することです。しかし集中すると他の可能性を忘れます。車の流れから北の方向を見つけ出せるかもしれません。このほうが地下鉄に限らずいろんな状況で使えるもっといい方法になるかもしれません」だ。即ち、決められた方法に集中している時、他の情報から新しい方法を見つけて、戦略を転換する決断をするときに脳のどの部分が働くかというのがこのプリンストン大学からの論文の課題で、4月8日号Cellに掲載された。タイトルは「Medial prefrontal cortex predicts internally driven strategy shift(前頭前皮質内側部の活動から自発的な戦略の転換が予測できる)」だ。さて例によってこの想いを研究にするための課題が重要だ。この研究では、被験者に緑か赤のブロックがちりばめられた白い枠を見せて、ブロックの分布がどちらのコーナーで混雑しているか聞く。誰もが正しい答えを出せるのだが、この簡単なトライアルを繰り返しているうちに、だんだん判断が難しいパターンを見せていく。この時、問題として示されるブロックの色と、答えが一致するようにしておく。すると、一部の被験者は、ブロックの色で判断して答えを出せばいいということに気づき、その後はパターンを気にすることなく、色で答えを出すようになる。これが使われた課題で、指示された方法から、自分で見つけた方法へと自然に変わる前後の脳の活動を記録し、脳のどの部分が方法を変える決断に関わるかを調べている。トライアル後聞き取り調査をすると、約30%の人が色で判断すればいいことに気づき、色で答えを出すようになる。一方残りは、言われた方法で最後まで判断する。両者について、どの部分の活動に大きな差があるかについて、判断の方法を転換した前後で見ていくと、色を指標に使い始めた被験者でだけ、前頭前皮質内側部が転換直前に活動を始め、転換と共に活動が低下する。一方視覚野を調べると、もちろん色を使い始めると活動は上がるが、戦略転換後も同じように高い。面白いことに、同じ時にブロックのパターン認識を行うときに使っている部位も一過性に上がり、その後はまったく使われなくなる。この結果から、一部の人では同じ課題を指示通りに行っている間も、自発的に他の可能性を探しており、最初パターン認識で使っていた領域の活動と視覚認識領域の活動を前頭前皮質内側部で統合できると、戦略転換するというシナリオを提案している。人間を用いた研究は、結果よりやはり課題設定が面白い。しかもこの課題は他にも使えそうだ。例えば民族間でこの課題を比べてみたい。今回の被験者たちは31%が指示された戦略を捨てて、他の戦略に転換した。日本国民の何割が転換する決断をするだろうか。私が現役なら、採用時にこのテストをして、指示以外の可能性を探せる研究者を選ぶだろう。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*