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4月4日:心室中隔欠損発症を予防する(Natureオンライン版掲載論文)

2015年4月4日

心臓の発生過程を学ぶと、その巧妙な仕組みに驚嘆し、様々な発生異常が発症しないほうがおかしいとさえ思ってしまう。実際、自然に治るケースも含めると新生児の1%になんらかの奇形が見られるという。あらゆる発生現象と同じで、この先天性心疾患が発症する基盤に様々な遺伝子変異が関わっていることは間違い無いが、発生時の母体が置かれた偶発的な条件が発症の大きな要因となると考えられている。いずれにせよ、100%の因果関係を示すような要因はないため、これまでの研究は疫学調査が中心で、母体の要因を調べるための動物実験が行われることはほとんどなかった。この意味で、今日紹介するワシントン大学からの論文は先天性心疾患における様々な母体要因の影響を実験的に確かめられるようにしたという点で意義は大きく、Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「The maternall-age-asociated risk of congenitall heard disease is modifiable(年齢に相関した先天性心疾患の発症を予防することはできる)」だ。この研究ではマウスをモデルに用いているが、いくらネズミ算で子供が多いと言っても、普通のマウスで先天性心疾患の発症を調べるのは頻度が低く並大抵のことではない。この研究では、先天性心疾患の頻度を上げることがわかっているNkx2.5遺伝子を染色体の片側だけで欠損したマウスを用いることで、この問題を解決している。この結果、1−2割の新生児で心室中隔欠損症が起こる実験モデル作成に成功している。このモデル系で発症する心室中隔欠損はNkx2.5分子の発現が相対的に低下している遺伝的変化を基盤にしているが、それ以外の遺伝的要因はほとんどないことが確認されており、中隔欠損発症に及ぼす母体要因を調べることができる。この研究では、1)年齢、2)遺伝背景、3)肥満・糖尿、4)運動の影響が調べられた。まず最も気になる年齢だが、高齢になると中隔欠損の頻度が1.5倍に上昇する。これが、卵子自体の老化によるのか、母体の老化によるのかを調べる目的で、卵巣移植を行い若い卵巣を高齢マウスに、また老化卵巣を若いマウスに移植して中隔欠損発症の頻度を調べると、卵子の老化ではなく、母体の老化が最も重要な要因であることを突き止めている。すなわち、若い卵巣も老化マウスの中で発生すると、中隔欠損頻度が上がる。確かにこんな実験は、モデル動物がないと不可能だ。次に遺伝背景だが、マウスの系統によって頻度は変わるため、ゲノム上の小さな変異が積み重なると中隔欠損発症につながることがわかる。これらの要因は一種の運命で、変えることはできない。次に、予防可能な要因としてまず肥満や糖尿の影響を調べるている。母親に高脂肪食を食べさせて肥満や糖尿を誘導した後、中隔欠損の頻度を調べているが、意外にもほとんど変化がない。少なくともこのモデルでは、従来疫学的に指摘されていた肥満や糖尿が重要な要因になることはなさそうだ。最後に、マウスが遊びながら運動できる回しぐるまをケージに入れて運動の影響を調べてみると、運動させる期間に応じて中隔欠損発症が大きく低下する。4ヶ月以上回しぐるまで遊んだグループでは実に頻度が3分の1に低下している。ただ、自由に遊ばせているので、体重や空腹時血糖には大きな差がなく、自由に運動することが重要であるという結論だ。これが本当かどうかは大規模な疫学調査が必要だが、遺伝的傾向があっても中隔欠損の発症を予防することができることが示されたことは大きい。一人でも中隔欠損児の誕生を減らせることになるなら重要な貢献だ。最後に、この研究では回しぐるまをケージに入れた効果を運動の効果としているが、ひょっとしたら回しぐるまで遊ぶことで精神的な安定がもたらされた結果効果があるのかもしれない。その点の確認も必要な気がする。


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