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4月7日:クリスパーを用いる遺伝子治療の可能性(Natureオンライン版掲載論文)

2015年4月7日

3月25日「CRISPRの倫理問題」と題して、現在大きな問題になりつつあるこの技術を用いた生殖細胞系列の遺伝子改変についての議論を紹介した (http://aasj.jp/news/watch/3113)。わが国で倫理議論が進んでないのはおそらく科学者との対話が進みにくいわが国の問題を反映しているのだろう。わが国の状況とは無関係に、これまでの議論のおかげで、ヒト生殖細胞への応用は世界中で見合わせられると思う。しかし一方でこの技術は体細胞の遺伝子改変を可能にする技術として大きな期待を集め、ベンチャー企業も活発な活動を始めている。ではどこまでトランスレーション研究が進展しているのかを知るため論文を集めていたら、Natureオンライン版に動物モデルではあるが、すぐにでもヒトに使えるところまで来ていることを示す研究がマサチューセッツ工科大学から発表された。タイトルは「In vivo genome editing using staphylococcus aureus Cas9(黄色ブドウ球菌のCas9を用いた体細胞ゲノム編集)」だ。CRISPRがいかに効率の良いゲノム編集ツールだと言っても、人や動物の体の細胞の遺伝子を直接編集するためには、遺伝子を体細胞に導入するベクターが必要だ。幸い、20年以上にわたる研究の結果、実用にこぎつけた様々な遺伝子治療ベクターが開発されている。例えば肝臓細胞に遺伝子を高率に誘導するために、アデノ随伴ビールス(AAV)をベクターに用いる高効率の方法がある。ただ、CRISPRにはCas9とガイドRNAを同時に細胞に導入する必要があるが、このCas9遺伝子は大きい遺伝子で、AAVベクターには入りきらない。このため、通常用いられる連鎖球菌のCas9よりもっと短い同じクラスのCas9が必要とされていた。この研究では、様々な細菌のタイプIIと呼ばれるCas9を検討し直し、黄色ブドウ球菌のCRISPR系ならガイドもCas9も全て一つのAAVに組み込めることを見出した。書けば簡単だが大変な仕事で、長さだけでなく、実際特異的な遺伝子切断を行うためにはどのガイドがいいのか、また無関係の遺伝子を切らないかなど、膨大な基礎実験を繰り返している。その結果、この技術の特異性についての問題も指摘している。専門家にとっては、ここで用いられる方法は極めて重要で、CRISPRを単に便利な道具として考えず、原理から理解するためにもゆっくり読んで欲しい論文だ。また、これをしっかり理解しないと新しい発想は生まれない。いずれにせよ、AAVに詰め込むことができる全く新しいシステムが開発された。この肝臓遺伝子編集の効率を確かめる意味で、2つの遺伝子につい調べている。このうちとくに重要なのは、治療に利用できるかどうか試す意味で試みられたPCSK9遺伝子の編集だ。この遺伝子が欠損すると、LDLコレステロールが低下し、冠動脈障害を予防することができることが知られており、早速、阻害薬剤も開発されている。AAVを注入してこの遺伝子を編集しその効果を調べたところ、驚くべきことに40%の染色体で遺伝子編集が起こり、血中に流れるPCSK9分子は90%減り、コレステロールが40%低下した。肝臓細胞の編集なら明日からでもヒトに応用できるところまで技術は進んでいることを示している。このシステムを中心に様々な病気治療の可能性が続々示されることだろう。様々な問題を乗り越えながら、しかしこの技術は確実に臨床応用へ歩を進めている。


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