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4月9日:音によるがん細胞の分離(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2015年4月9日

基礎研究を初めた時から血液やリンパ球を扱ってきたので、目的の細胞を分離することは研究にとって最も重要な条件だった。研究を続けた30年以上、細胞表面に発現している分子を蛍光抗体で染色してセルソーターを用いて分離する手法と付き合ってきたし、材料も提供してきた。マウスのIL7Rやc-Kitに対する抗体は今も世界中で私たちが作成した抗体が使われていると思う。ただ、この手法はどうしてもコストがかかる。できればもっと単純な方法で目的の細胞を分離したいと考えるのが当然で、これまでも密度勾配、沈降法など多くの方法が開発され、私も利用したことがある。ただ、音波を使うという方法はこれまで一度も考えたことがなかった。今日紹介するペンシルバニア州立大学からの論文は、血液細胞中に流れるガン細胞を音波を使って他の白血球から分離する方法の開発についての報告で、米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Acoustic separation of circulating tumor cells(末梢血中のガン細胞を音波で分離する)」だ。原理は単純な力学で、末梢血を採取、赤血球を溶血させた残りの白血球を細い管を通す間に、音波で一方向への力を加え、細胞の大きさ、密度の差の違いで流路を変えることで、ガンと白血球を選り分けようとしている。研究では、ビーズやガン細胞を様々な濃度で混ぜた白血球を用いて、分離のための条件を詳しく検討し、1時間あれば90%程度の収率でガン細胞を分離する方法を確立している。最後に、開発した方法が実際の現場に利用可能かどうか調べる目的で、もともとガンが末梢血に流れやすい乳ガン患者さんの末梢血からガン細胞を分離できるか調べている。結果は上々で、2ccの血液から、一人は59個、一人は8個のガン細胞を分離している。一方、治療を初めて2ヶ月の患者さんで、従来法でもほとんどガンを検出できなかった方からは検出できていない。末梢血に流れているガン細胞をCTCと呼ぶが、生きたガン細胞が簡単に採取できることから、プレシジョンメディシンのための鍵になると思う。すでに様々な方法が開発されているが、今回の方法はコストの面で他の方法を凌駕するだろう。まだ、分離に時間がかかるなどの問題はあるが、気軽にCTCを調べられるという意味では大きな進歩だと思う。おそらく乳ガンについては利用が大きく拡大するのではないかと期待する。


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