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4月10日:貧困と脳発達(Nature Neuroscienceオンライン版掲載論文)

2015年4月10日

2012年5月ユニセフから「New league tables of child poverty in the world’s rich countries(裕福な先進国での児童貧困のデータ)」とタイトルのついたレポートが出された。その中に先進35カ国の子どもの貧困率の図が示されているが、考えさせられる。まずわが国はと探すと、貧困率は14.9%にも達している。8.5、8.8%のドイツやフランスと比べると圧倒的に高い。しかしわが国政府が範としている米国に目を転じれば35カ国中2位で貧困率23%と他を圧倒している。わが国の経済政策が同じ状態を目指しているなら、今ストップをかけるべきだろう。このアメリカの児童貧困問題を科学的に調べたのが今日紹介するコロンビア大学からの論文で、子どもの社会経済的状況と脳皮質の解剖学的発達との相関を調べた研究でNature Neuroscienceオンライン版に掲載された。タイトルはそのものズバリ「Family income, parental education and brain structure in children and adolescents(児童と青年の脳構造と所帯収入と親の教育)」だ。これまでもMRIで調べた脳構造と貧困との関係を調べた論文は発表されているが、この研究は1000人以上について調べた点、さらにPINGデータベースを用いて脳画像、家庭環境やGWASを用いたゲノムデータも同時に検討し相関を調べている点だ。即ち、脳発達に影響の多い遺伝や年齢などを全て計算に入れて、環境要因の影響を抜き出すことができる。家庭環境では所帯収入と親の教育歴に焦点を当てている。所帯収入は当然食べ物など子どもが受けることのできる物質的質を反映し、一方親の教育歴は子どもとの精神的接触の質を反映すると考えている。結果は予想通りというか悲しい結果だ。親の教育歴は直線的に脳の皮質の厚さに相関し、収入は指数的に脳の厚さと相関する。すなわち、親の教育が長ければ長いほど、子どもの脳は発達する。また、家族の収入が上がれば上がるほど脳は発達できる。社会経済的環境は解剖学的変化につながるという結論だ。変化の大きい脳の場所を調べると、親の教育レベルの影響は言語や実行力につながる部位の発達と相関することがわかる。一方、収入が最も相関したのは海馬の発達だった。もちろん米国の結果をそのままわが国に当てはめられるかどうかわからない。またこれは全て統計学的有意差についての話で、実際の値は大きくバラついている。しかし、IQのような抽象的な指標だけで対策を講じるのではなく、身体的構造レベルの指標が得られたことは重要だ。わが国でも子育て支援策を評価するためにも、このようなデータベースの拡充が望まれる。


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