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4月13日:毛の再生は炎症だ(4月9日号Cell掲載論文)

2015年4月13日

全くの初対面で話し始めて、アイデアや知識にあふれているのに、それをひらけかさない好印象を受ける人がいる。そんな一人が南カリフォルニア大学の台湾人科学者、鍾(Chenmin Chun)さんだ。キーストンだったか、ゴードンだったか幹細胞会議の帰りのバスの中で話しかけられ、空港までの2時間以上、ずっと話し込んでしまった。その後は彼の仕事を読むのを楽しみにしてきた。そんな鍾さんから毛根の再生について全く新しい視点を示す素晴らしい論文が4月9日号のCellに掲載された。タイトルは「Organ level quorum sensing directs regeneration in hair stem cell population (臓器レベルの定足数制限メカニズムにより毛根の幹細胞再生が制御される)」だ。研究のきっかけは鍾さんたちが2008年Natureに報告した、決まったエリアの毛をまばらに抜いた場合、毛の再生が見られないという、鍾さんならではの発見だ。このメカニズムを解こうとモデリングや材料の開発についての論文を発表していたが、この論文はその集大成と言っていいだろう。まばらに抜いたときは毛の再生がないということは、個々の毛根で毛の再生が決められるのではなく、障害の程度に応じて領域で再生を決めるメカニズムがあることを示す重要な発見だ。最初はこの現象に関わる分子の条件を探るためのモデリングの実験だが、数学嫌いの私から見ると鍾さんの知識の広さを示す一種のデモンストレーションで、おそらくモデリングする・しないに関わらず、彼はこの論文を書けただろうと思う。そして出てきたのが、毛根再生とは、毛が抜かれるという損傷に対する炎症メカニズムを取り込んで、障害の程度に応じた再生を行っているという新しいシナリオで、核となる分子過程についても決定に成功している。長い論文なのでシナリオについてだけ紹介しておこう。まず毛が抜かれると組織では損傷として認識され、その一環としてマクロファージを引き寄せる遊走因子CCL2が分泌される。CCL2の濃度が閾値に達しないとそれ以後の反応は起こらないため、毛をまばらに抜いたとき再生が起こらなかったのは、CCL2濃度が閾値に達しないからということになる。実際、CCL2ノックアウトマウスでは毛の再生の誘導が起こらない。さて次に起こるのは、CCL2に対する受容体を持ったマクロファージの集積で、これは全く炎症反応と同じだ。これを確認するため、顆粒球を除去した皮膚で再生を調べると、全く再生が起こらず、マクロファージの集積が必須であることが確認される。このマクロファージは炎症反応の主役TNFαを分泌しNFκbを介する炎症反応を誘導すると同時に、Wntシグナルを毛根で誘導することで毛根の再生が起こる。実際、この分子がないマウスでは再生が遅れ、TNFαをビーズにまぶして皮膚に注入するとその場所にだけ毛の再生が起こる。アイデア先行で分子メカニズムをなおざりにするモデリングの仕事が多い中で、あらゆる材料を駆使した素晴らしい研究だと思う。さらに、炎症を損傷による毛根再生の基礎に持ってきたのは新しい展開だ。鍾さんならではの、総合力をうかがわせる仕事だ。私も京大に在籍中、当時研究室に在籍していた大学院生の吉田さん(現横浜理研)や本田さん(現慶應大学医学部)たちと、リンパ組織や造血組織が、炎症をプロトタイプとして発生してくるという総説を書いたことがある(Current Opinion in Immunology, 12:342, 2000)。その時おそらく毛根も同じではないかと書いたので、その意味でもより感慨が深い。しかし考えるだけでは何の意味もない。鍾さんに脱帽。


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