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4月19日:コンセンサス形成の脳科学(4月22日号Neuron掲載論文)

2015年4月19日

専門外の私から見たとき、人間の行動の背景にある脳活動を調べる研究は、行動を測定するためのタスク(課題)の設計が一番面白い。誤解を恐れずに言うと、そのあとの脳活動測定は付け足しに感じてしまう。一方、脳各領域のこれまでの研究について熟知した脳科学者は、おそらく浮き上がってきた機能的MRIの結果の方にもっと興奮するのだろう。この転換が専門家と非専門家を分ける違いではないかと思う。今日紹介するカリフォルニア工科大学からの論文は、他人の意見を聞きながらコンセンサスを形成するという複雑な過程を対象にした研究で4月22日号のNeuronに掲載された。タイトルはズバリ「Neural mechanisms underlying human consensus decision-making(人間のコンセンサスを形成しようとする決断の背景の神経メカニズム)」だ。コンセンサス形成というからには集団を扱う必要がある。この研究では6人の被験者のコンセンサス形成過程で参加者の一人の脳がどう反応したかについて機能的MRIで記録している。さて肝心のタスクだが、いつもながら感心する。この研究では、2つ示された物のうちどちらにするかを選択するゲームで、限られたトライアルの間にどちらを手にするかについて全員の意見が一致した時だけ、それが手に入るという課題を課している。例えばコーヒーと紅茶を見せてどちらが飲みたいか聞く。もちろん最初はそれぞれの好みに従って選択が行われ、例えばコーヒー4人、紅茶2人になるとする。この場合私が紅茶を選んだとすると、全員が飲み物を得るためには、とりあえず次はコーヒーにすると決断を変える。もう一人の紅茶派もそう考えてコーヒーに変える。そして、コーヒー派の4人が残りの2人が大勢に着くだろうと読めば、次の回でめでたく全員がコーヒーを得る。もし私が、コーヒーなら飲まないほうがましで、ずっと紅茶を選ぶとする。もちろん私がそうしていることはわからない仕組みになっているので、気まずくなることはない。しかし、残りの参加者には誰かこだわりのある人間がいることがわかる。その結果、残りの人が紅茶に変わればめでたく全員飲み物を得ることができる。しかしこういった場合は少数派に賛同する人はまれで、通常はコンセンサスが成立せず、何も手に入らず次の課題に移ることになる。この行動を分析すると、1)自分の好み、2)大勢についての理解、3)こだわり、でコンセンサス形成が決まることがわかる。この3要素がコンセンサス形成を決めると仮定してモデルを作ると、実際の選択結果に一致し、他の要素があまり関与していないことがわかる。これを確認して、夫々の要素に関わる脳領域を調べると、1)自分の好みはこれまでも意思決定に関わることが知られていた前頭葉の下部内側部、2)大勢の理解はやはりこれまで他者の意見を理解することに関わるとされてきた上側頭溝、3)最後に誰かのこだわりについての推察はやはり他人の意思の推察に関わるとされている頭頂間溝、にそれぞれマップされた。少し出来過ぎの感はあるが、納得だ。そして最後に、これらすべての領域に連結し、コンセンサス形成自体と相関する領域として前帯状皮質の前方部が特定された。この部位もこれまでの研究で様々な情報の統合に関わるとされている。まとめると、コンセンサス形成には好み、大勢、こだわりを感じるそれぞれの脳領域が前帯状皮質により統合されることで調節されているとする結果だ。おそらく次の課題は、6人全員の脳記録により、それぞれの心の動きと決断の法則を解明することだろう。次はどんなタスクと出会えるか、期待して論文を読んでいる。


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