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4月24日:クロマチンを開く(4月23日号Cell掲載論文)

2015年4月24日
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私の理解力が悪いのか、相性が悪いのか、何度聞いても研究の内容がよく理解できない研究者がいる。論文は斜め読み、詳しいことは会議のトークを通して聞くというスタイルで忙しく暮らしていると、英語が母国語でない私には分かりにくい研究者リストが出来てしまっていた。そんな一人が今日紹介する論文の責任著者Zaretだ。彼とは雑誌Developmentのエディターの仲間として知り合いになり、会議で1年に最低2回は同じ話(少しづつは変わるが)を聞いていた。しかし現役時代は結局肝臓発生と転写因子FoxAのメカニズム研究についてのトップグループという以上の深い理解をすることはなかった。その彼のグループが4月23日号のCellに「Popmeer transcription factors target partial DNA motifs on nucleosomes to initiate reprogramming (ヌクレオソーム上に一部だけ露出したDNAモチーフをパイオニア転写因子は標的にする)」という論文を発表した。彼の論文を最後まで読んだのは正直今回が初めてだが、現役時代に理解を妨げていた霧が晴れたように感じ、論文を読むことの大事さを再確認した。

 さてこの論文では、なぜ転写因子の影響を受けないように完全に閉ざされた遺伝子領域が、結合できないはずの転写因子の働きで開くのかという問題が調べられている。例えば山中4因子を導入すれば体細胞が多能性幹細胞へとリプログラムされると単純に考えられているが、普通の体細胞では多能性細胞で働く転写因子が結合する部位はエピジェネティックなメカニズムで閉ざされている。どうして閉ざされた結合部位に導入した山中転写因子が結合できるのか、実際にはよくわかっていない。分裂しているうち少しは開くのだろうなど、適当なことを言ってごまかしてきた。酸でリプログラムしていいと考えるのも全く荒唐無稽ではなく、この閉ざされたヌクレオソームをこじ開けれるのではと期待する背景がある。この問題に対し、閉じたヌクレオソームにも一部の転写因子(パイオニア因子)は結合可能だとするZaretらが長年主張してきた考えに立てば説明できることを示したのがこの研究だ。まさにプロの仕事で詳細は省かざるをえないが、まず精製した山中4因子と、リプログラムされたあと4因子が結合する標的領域(この研究ではLin28領域が使われている)の結合を調べ、ヌクレオソームを形成しない裸のDNAへの転写因子の結合部位と、様々なヒストンが結合したヌクレオソームへの結合部位が異なることをまず示している。すなわち、リプログラミングは、転写因子と核酸との直接結合から始まるのではなく、ヒストンなどで閉じられたヌクレオソームと転写因子の結合から始まることを示した。次に、ヌクレオソームに結合するとき、山中4因子は何と結合しているのか構造解析を行い、ヌクレオソームの表面上に一部だけ突出している転写因子結合領域に引っかかるようにまず結合し、その後領域全体としっかり結合することで、下流の遺伝子の安定的活性化が始まり、リプログラムへと進むことを示している。これが彼らがずっと主張してきたパイオニア転写因子の考えだが、山中4因子もパイオニア転写因子としての働きを持っているというのが結論だ。そして、このパイオニア因子能力は、ヌクレオソーム表面に露出した標的領域の一部にでも結合できるかどうかにかかっていることを示している。最後に、多能性幹細胞へのリプログラムだけでなく、体細胞から体細胞へのプログラムやリプログラムでもこのパイオニア転写因子が関わると結論している。この結論が正しいなら、プログラムやリプログラムで鍵となる転写因子を、標的領域を含むヌクレオソームとの反応として試験管内でテストすることも可能になるかもしれない。話も面白かったが、ようやくZaretが話していたことがわかって、雲が晴れた気持ちになった。やはり論文を読むことは重要だ。

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