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4月26日:胚のミトコンドリア操作(4月23日号Cell掲載論文)

2015年4月26日

3月21日このホームページで紹介した( http://aasj.jp/news/watch/3113 )クリスパーによるヒト胚操作の論文 がProtein & Cell誌に紹介され、我が国のマスメディアも科学者による第二のアシロマも含めようやくこの問題を取り上げている。いつものことだがメディアの記事には論文をしっかり読んだ形跡はない。私も読んだが、ヒト胚ゲノム編集に名を刻もうとする気持ちが見え見えの論文で、研究としてコメントする気にならない。しかしアメリカで行われたように、科学者からもっと活発に発信することが大事だが、未熟な我が国の科学者社会は、政府が呼びかけないと動かないようだ。しかし、この分野ではどんどん新しい話が浮き上がってくる。何度も繰り返すが、新しい遺伝子編集技術はアイデアがアイデアを産む革命的技術だ。あらゆる分野へ拡大すること間違い無い。今日紹介するソーク研究所からの論文は細胞内の特定のミトコンドリアを消滅させる技術の論文で4月23日号のCellに掲載されていた。タイトルは「Selective elimination of mitochondrial mutations in the gremline by genome editing (遺伝子編集技術を用いて突然変異のあるミトコンドリアを選択的に除去する)」だ。昨年10月19日このホームページで紹介したように(http://aasj.jp/news/navigator/navi-news/2311)ミトコンドリア病の原因は正常と異常なミトコンドリアが混在するヘテロプラスミーと呼ばれる状態から引き起こされる。また、幾つかの疾患ではこの異常の原因となるミトコンドリア遺伝子の突然変異が同定されている。ミトコンドリアは細胞とは独立に増殖できる自律性を持っているため、異常ミトコンドリアを除去することで、正常ミトコンドリアが増えて、細胞が正常化することを期待できる。正直この論文を読むまで私も全く知らなかったのだが、悪いミトコンドリアを除去するため、細胞内でミトコンドリアだけに移行するように細工した制限酵素を用いてミトコンドリア遺伝子を切断し、除去する試みはずっと行われていたようだ。ただ制限酵素の場合悪いミトコンドリアだけに切断サイトが必要になるため、利用は限られる。これを特定の遺伝子配列を認識して切断するTALEN+ZFN切断酵素の組み合わせで、卵子内に存在する悪いミトコンドリアを狙って消滅させることができ、次の世代へ伝達するのを阻止することが可能であることを示している。この方法がミトコンドリア特異的で、ゲノムに傷が付いていないことをCGHと呼ばれる方法で確かめているが、これだけで結論はできないだろう。この技術の場合は、編集した遺伝子は除去されるため、人為的編集結果がミトコンドリアに残ることはない。しかし、ヒト胚の遺伝子操作であることは間違いがない。事実、この研究でも異常ミトコンドリアを持つ人の細胞をマウスの卵子と融合させ、この方法で突然変異ミトコンドリアを除去できることを示し、ヒト胚への応用を視野に入れている。科学者がイニシアチブをとって市民やメディアを巻き込む議論が必要だが、ただ、我が国にそれが可能な科学者と社会の成熟した関係はなく、また科学者も議論を自らリードするイニシアチブもないようだ。例えば山中さんが呼びかけて、マスメディアが答え、日本版アシロマ会議でオープンな議論をしてみたらどうだろう。このような会議が可能になれば、生命倫理や命の選択といった杓子定規なコメントしか頭に浮かばないメディアも少しは変われるかもしれない。


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