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5月4日:アフリカツメガエルが発生学最前線に帰ってきた(Scienceオンライン版掲載論文)

2015年5月4日
私の学生時代は、発生学にシュペーマンの伝統が脈々と生きており、実験動物もアフリカツメガエル(Xenopus )の独壇場だった。しかし今やXenopusを用いた研究は地盤沈下が激しく、発生学の専門誌Developmentでもエディター仲間に一人Xenopusを使った研究者がいたが、Xenopusの論文はかなり少数派だった。この理由は、Xenopusの持つ実験上の優位性が失われ、この実験システムでないと研究できないテーマが激減したためだと思う。Xenopusを用いる発生学の伝統が復活するためには、Xenopusに向いたしかも普遍的なテーマを探すことが必要になる。今日紹介するノースウェスタン大学からの研究はこれに成功した研究でScienceオンライン版に掲載された。タイトルは「Shared regulatory programs suggest retention of blastula-stage potential in neural crest cells(共通の調節プログラムの存在から、神経堤細胞の多分化能は胞胚期の多分化能が維持された結果であることを示唆している)」だ。この論文を理解するには神経堤細胞の多分化能について最低限の知識が必要だろう。神経堤は神経管の上部から発生し、神経や色素細胞へ分化する細胞だが、頭部の神経堤細胞はさらに骨や筋肉を含む多くの細胞系列へ分化する多分化能を持つことが知られている。多分化能といえばもちろんES細胞が由来する胞胚期の細胞の特徴だが、神経堤細胞は発生中期にできてくる細胞にもかかわらず、最も未熟な多能性細胞に匹敵する分化能力を持っている。このため分化能が一度制限された神経細胞が神経堤細胞へと分化する時多能性が新たに誘導されると考えられていた。この研究を行ったLaBonneさんたちはこの通説に反し、神経堤細胞の多分化能は胞胚期の多分可能に関わる分子ネットワークがそのまま維持され続けた結果ではないかとこの論文で提唱した。この仮説が正しければ、神経堤細胞も胞胚期の細胞と同じ多分化能の維持に関わる分子を発現しているはずで、この点の検討から研究を始めている。期待通り、山中4因子を含む多能性維持に関わる分子が両方の細胞で発現していることが確認された。次に、Xenopus胞胚期の多能性細胞を代表するアニマルキャップ細胞を分化させる時、神経堤が誘導される条件でだけ多分化能を持った細胞が誘導でき、この細胞から普通神経堤細胞からは分化しない内胚葉細胞まで分化してくることを発見した。すなわち、神経堤細胞は、ほぼ胞胚期の細胞と同じ多分化能を持っていることを示している。これが人為的な実験的条件がもたらした結果でないことを示すため、正常胚から神経堤細胞を取り出して培養し、胚内の神経堤細胞も条件さえ整えば内胚葉へ分化できることを示している。これらの結果から、LaBonnaさんたちは、神経堤細胞の多能性は、胞胚期の多能性維持機構の全部、あるいは一部が維持された結果だと結論している。論文は論理的で、実験もしっかりしている。ただ完全に納得したかと言われるとそうはいかない。研究はXenopusを用いた比較的古典的実験系だけで行われており、この説が正しいかどうか、あるいは全ての脊椎動物で同じことがいえるのかさらに検討が必要だと思う。特に多能性の分子ネットワークが維持され続けている途中段階の細胞を特定する必要があるだろう。同じような研究をマウスES細胞で行った(Cell 129,1377)本人としては、単一細胞レベルの追跡実験が必要だと思う。とはいえ、Xenopus研究の歴史で培われた全てのテクノロジーを重要な問題に集中させる方法には好感が持てる。興味があったので調べてみると、神経堤細胞分化の第一人者Bonner-Fraserさんのポスドクから独立した若手のようだ。今後Xenopusを用いる発生学のリーダーとして活躍を期待したいと思う。

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