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5月13日:骨髄異形成症候群の発症機構1(Cancer Cell掲載論文)

2015年5月13日
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5月11日発行のCancer Cell紙に骨髄異形成症候群(Myelodysplatic syndrome:MDS)の発症機構に関する論文が3報も続けて掲載されていた。普通同じ雑誌に続けて論文が掲載される時は、内容の同じ論文をまとめて掲載する場合が多いが、今回はいずれの論文も最近のMDSゲノム解析から新たに生じた新しい謎について迫ろうとしている点では同じでも、扱っている分子は異なっている。せっかくなので、今日から3日間連続で紹介する事にした。MDSのエクソーム解析結果が出て一番驚いたのが、遺伝子の翻訳部分のエクソンだけを長いRNAから抜き出して一本のmRNAにまとめる、RNAスプライシングと呼ばれるプロセスに関わる遺伝子の突然変異がなんと60%以上の患者さんに見られた事だ。なぜスプライシングの異常が発がんにつながるのか、この謎に迫る最初の論文はスローンケッタリング癌研究所からの研究で、タイトルは「SRSF2 mutation contribute to myelodysplasia by mutant-specific effects on exon recognition (SRSF2分子の突然変異はエクソン認識が突然変異特異的に変化し骨髄異形成に寄与する)」だ。   この論文では、MDSで突然変異が見つかるスプライシングに関わる分子の一つSRSF2に焦点を当てて研究を行っている。まず、片方の染色体のSRSF2に特定の突然変異を導入するだけで、骨髄細胞形態の異形、幹細胞集団の増加、血液分化異常を伴う典型的MDSがマウスで発症する事を示している。示された図から見ても、これまでMDSモデルとして示された中ではかなりヒトのMDSに近いと言っていいのではないだろうか。次に、この突然変異を、SRSF2分子の機能が完全に失われる変異と比較して、MDSの原因はSRSF2機能の欠損ではなく構造変化により機能が変化したSRSF2分子が働いているためであることを確認し、この変化の分子基盤を調べている。詳細を省いて結論だけを述べると、SRSF2の機能はエクソン部位に存在する特定の分子を認識してスプライシングに関わる分子を集めるエンハンサーの役割を担っている。この遺伝子が片方の染色体で完全に失われても大きな異常は起こらないが、MDS患者さんで見られるタイプの突然変異の場合、この部位の認識が甘くなってもスプライシングは起こってしまうので、多くの遺伝子で一部のエクソンが欠損した異常分子が作られる事になる。この異常なエクソン構造を持った分子のほとんどは分解されるが、いずれにせよ異常mRNAが細胞の中で増えるという全体的変化が、MDS発症の基盤になっているという結論だ。もちろん、全体的異常といってしまうと、それ以上解析しようがなくなるが、この研究では、この異常により特に影響を受ける分子が存在し、病気の発症により大きな効果を持つ事も示している。中でもEZH2と呼ばれるヒストンメチル化に関わる遺伝子のスプライシング異常でこの分子の絶対量が細胞で減る事により、多くの血液特異的遺伝子の発現が変化してしまう事がMDS発症の鍵になっており、SRSF2突然変異があっても、正常EZH2遺伝子を発現させてやるとMDSが正常化する事を示している。この結果は、なぜスプライシングという全体的異常がMDSという特異的疾患につながるかについて一定の答えを示してくれている。さて、明日はもう一つの遺伝子、U2AF1だ。

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