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5月15日:骨髄異形成症候群の発症メカニズム3(Cancer Cell掲載論文)

2015年5月15日
最後のテキサスMDアンダーソン病院からの論文はタイトル「Telomere dysfunction drives aberrant hematopoietic differentiation and myelodysplastic syndrome (テロメアの異常により血液細胞分化が異常と骨髄異形成症候群が起こる)」からわかるように、テロメア異常がMDSの原因になるかどうか調べる研究が発端だ。テロメアは一本のDNA鎖としての染色体に必ず存在するDNA断端が分裂ごとに短くなるのを防ぐ防御システムで、TTAGGGという繰り返し配列をバッファーとして持つことで、テロメアを失ってもゲノム自体が守れるようにするメカニズムだ。ただ、短くなったテロメアをもう一度修復するテロメラーゼという酵素があり、生涯分裂を繰り返す幹細胞には重要だ。このグループはこのテロメラーゼをホルモン投与でオンにしたりオフにしたりできるマウスを開発しており、研究ではまずテロメラーゼ機能をオフにした時の造血に対する影響を調べている。マウスはもともとテロメアが長いので最初の世代は問題ないのだが、4世代を越すとテロメアの機能が失われ始め、結果MDSと同じ症状が出て、さらに一部は白血病まで発症することが分かった。テロメラーゼがないと、普通細胞は死んでしまって、がんにはならないのだが、それを超える異常が生まれているようだ。まずテロメラーゼの欠損がMDS様の異常を引き起こす原因を調べ、テロメア異常特異的というより、放射線などとおなじDNA障害による問題が細胞に生じて異常を誘導していることを明らかにしている。最後に、ではDNA障害により血液幹細胞に何が起こるのか突き止めるため遺伝子発現を調べたところ、多くの分子にスプライシング異常が認められ、それに呼応してすでに紹介したSRSF2やU2AFなどのスプライシング調節分子の発現が低下することを発見した。テロメラーゼというかなり特殊な実験系から始めて、実際のMDSで異常が認められる分子の発現異常までようやくたどり着いたという感じだ。最終的に、テロメア異常、DNA障害、スプライシング異常という因果性を確認するため、SRSF2遺伝子を片方の染色体でノックアウトするとMDS様の症状が出ること、またSRSF2の発現量が減少し、スプライシングが全体的に異常になると、テロメアを維持する機構にも障害が出て、両方の要因が増幅し合うことを報告している。おそらくこれまで読んでいただいた方はこの結論を聞いて「え?」と思っているのではないだろうか。最初の2編の論文では、SRSF2やU2AF分子は発現量が減るだけではMDSは起こらないと結論した。なのに、今回は、発現量の低下だけでMDSが起こると結論している。私も実のところどうかわからない。最後の論文では、テロメア異常によるMDSをなんとか説明しようと、誰もが納得出来るよう結論を急いだかもしれない。とすると、おそらく遺伝子量の差が引き起こした小さな差をどう解釈したかだけの違いが、他の論文との結論の差になってしまう。結局論文とはそんなものだ。とはいえ、この3編の論文を読んで、なんとなくMDSの病理学の理解が深まった気がする。例えば、被爆者の方が高齢化した今MDSが増加していることが問題になっている。テロメアモデル系は、この問題を扱ういいモデルになるかもしれない。実際、スプライシング異常だけでは起こらない白血病の発症が観察されている。また、MDSにレナリドマイドやアザシスチジンが効くことがわかってきたが、このメカニズムを理解するにも、今回紹介したモデル系は役に立つ予感がする。3編続けて論文が掲載されると、それぞれの研究者の焦りや無理が論文に現れているのを感じるが、同時に病気の理解もしっかりと進んでいることも実感できた。

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