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5月30日:抑制性T細胞によるI型糖尿病の予防と治療(Science Translational Medicine5月27日号掲載論文)

2015年5月30日
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今日5月30日は日本IDDMネットワークが創立20周年のサイエンスフォーラムを開催される日だ(http://japan-iddm.net/sympo_aichi_2015/)。なんども紹介したが、日本IDDMネットワークは認定NPO法人で、寄付に対する税制優遇措置を受けることができる数少ない患者さんの団体の一つだ。活動を見ていると、間違いなく今後も発展が続くと確信する。アメリカのJDRFと比べて、おそらく次の一手として考えられるのは、ネットワーク自体が自前の科学諮問会議をもって、運動方向などに利用することではないかと思う。大いに期待している。論文ウォッチでもエールを送る意味で、この分野の面白い論文がないか目を光らせていたところ、イタリア・ミラノ大学から抑制性T細胞を用いて1型糖尿病を治療する可能性についての論文がScience Translational Medicineに掲載された。まだまだモデル研究段階で、患者さんを混乱させる懸念もあるのだが紹介することにした。タイトルは「Insulin B chain 9-23 gene transfer to hepatocytes protects from type 1 diabetes by inducing Ag-specific FoxP3+Treg.(肝細胞へ直接インシュリンB鎖の9−23ペプチド遺伝子を導入することでFoxP3+Tregを誘導し1型糖尿病を防げる)」だ。1型糖尿病のほとんどは自己免疫疾患で、自己β細胞に対する免疫反応が誘導されるために起こる。ただ、β細胞に対するキラーT細胞が誘導されていても、多くの患者さんは発症までに時間がかかる。これは、キラーT細胞の反応を抑える抑制性T細胞が誘導されているからと考えられている。ただ、何かの原因でこのバランスがキラーに傾くと、β細胞が殺され病気が発症する。従って、免疫システムのコントロールはこの疾患研究の重要なテーマで、この研究ももちろんJDRFのイノベーション助成を受けている。言ってみれば、患者さんに選ばれた研究の一つだ。多くの方はご存じないと思うが、イタリアは遺伝子治療研究が進んでいる国の一つだ。この研究では、1型糖尿病モデルマウスの自己抗原として特定されているインシュリンB鎖ペプチド遺伝子をビールスベクターにつないで肝細胞だけに発現させることで、抑制性T細胞を選択的に誘導して、免疫反応のバランスを変えることができるのではないかというアイデアを検証している。詳細を省いて結果だけを述べると、1)肝臓特異的ベクターを用いて遺伝子を導入した時だけ糖尿病の発症を止めることができる、2)この発症抑制は抗原特異的抑制性T細胞が誘導されたからで、この細胞を糖尿病マウスに移植すると発症を遅らせることができる、3)発症が始まったマウスも、低い濃度の抗CD3抗体と同じ遺伝子の導入で病気を直すことができる、ことが示されている。3番目の結果は、発症が始まってもβ細胞があるうちは治療できる可能性を示した重要な結果だ。肝臓細胞に提示される抗原は抑制性T細胞が誘導されやすいことから着想した概念が証明された研究だと言える。もちろん患者さんにしてみれば、まずレトロビールスで肝臓に遺伝子を導入することが安全か、なんらかのきっかけでキラー側にバランスが傾かないかなど、まだまだハードルの高い治療法だと思う。しかし、予防と発症防止が1型糖尿病の患者さんのまず第一の目標であることを考えると、学ぶところの多い研究だと思う。幸い、この抑制性T細胞は現在阪大にいる坂口志文さんが発見し、今も世界をリードする研究を続け、最近ガードナー賞に輝いている。この日本の研究伝統を少し借りればもっとハードルの低い治療法開発も可能かもしれない。是非一度坂口さんにそのへんを聞いてみたいと思った。   日本IDDMネットワーク20周年おめでとう。今後もできる限りの協力をしたいと思います。
  1. Okazaki Yoshihisa より:

    1:1型糖尿病モデルマウスの自己抗原として特定されているインシュリンB鎖ペプチド遺伝子をビールスベクターにつなぐ。
    2:肝細胞だけに発現させる。
    3:抑制性T細胞を選択的に誘導し、免疫反応のバランスを変えるというアイデア

    →遺伝子治療の1つですね。今後の発展が楽しみな方法です。

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