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6月10日:投票行動と脳活動(6月3日号Journal of Neuroscience掲載論文)

2015年6月10日
特定の部位に局所的脳損傷を持つ患者さんの行動を調べる研究は、これまで様々な高次行動に関わる脳領域の特定に大きく貢献してきた。最も有名なのが失語の研究で、発話に関わるブローカ領域と聞き取りに関わるウェルニッケ領域はこうして特定された領域だ。多彩な研究が行われており、論文だけでなく一般向けにも様々な本が出版されている。例えばダマシオの「デカルトの間違い」などはその典型で、一般の方が読んでも楽しめると思うが、一方わが身に起こったらと考えると恐ろしい話ばかりだ。とはいえ、今日紹介するモントリオール大学からの論文のように投票行動まで脳の局所論で片付けようとするのは少し首を傾げたくなる。論文のタイトルは「Lateral orbitofrontal cortex links sociall impression to political choices (眼窩前頭野側部は社会的印象を政治的選択と結びつける)」で、6月3日号のJournal of Neuroscienceに掲載された。タイトルからもわかるように、この研究の課題は候補者の個人的印象が投票行動に反映される過程に関わる脳部位を特定しようとしている。というか、すでに様々な社会的状況を考慮する決断や、写真から社会的情報を得る能力に関わっていることが示唆されている眼窩前頭野側部が投票行動に関わるかどうかを調べている。この脳領域が損傷された患者さん7人、他の前頭野に損傷を持つ患者さん18人、そして健常人53人のMRIで損傷部を確認した後、まず30組の候補者の組み合わせを順番に見せ、印象でどちらに投票するかを決めさせる。このとき、政治的主張などは提供せず全て印象で決めてもらう。その後、30組の選択課題に登場したそれぞれの候補者を、能力がありそうに見えるか、好感度が高いかに限って点数をつけてもらう。そして、2人の組み合わせからどちらを選んだかという決断と、それぞれの候補者の印象からつけられた点数を比較して、好感度や見た目によって投票行動がどう影響されるか調べている。予想通り、対照に選んだ健常人や前頭葉に損傷を持つだけの患者さんでは、候補者の印象からつけた点数が高い方を選んで投票している。すなわち、このような設定では候補者の見た目の印象に従って投票している。一方、眼窩前頭野側部に障害を持つ患者さんは、各候補者の評価では対照群とほとんど変わらない点数をつけているにもかかわらず、投票行動にこの点数が全く反映されないことが分かった。結果はこれだけで、この脳部位が様々な印象を総合して政治決断へ結びつけるときの重要なハブになっているという結論が導かれている。確かに面白い課題を設定していると思うが、これを政治的選択と呼んでいいかについてはやはり疑問を感じる。例えば、何かを頼みたいとき、どちらに頼むかという場合も同じ結果になるだろう。せっかく政治選択と結びつけるなら、支持政党との関係などの分析ができる課題が必要だと思う。他にも北朝鮮の人など、政治体制の影響も調べてみたい。いずれにせよ、この論文の著者たちはこのような行動研究から何を得ようと期待しているか?選挙など結局候補者の印象で決まると言いたいのか、もっと深い意図があるのかなど結局分からず、フラストレーションの残る論文だった。

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