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6月16日:脳内ネットワーク維持の分子基盤(6月12日号Science掲載論文)

2015年6月16日
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人間の脳高次機能を研究は、様々な課題に基づく行動を、機能的MRI,PET,脳活動電位などの脳イメージングを使った脳活動と相関させる研究が中心だ。時に遺伝子異常特定された患者さんを同じように調べて、例えばイオンチャンネルから脳の活動、そして行動をつなぐ研究も存在するが、遺伝子レベルの研究はどうしてもマウスなどの動物実験に頼らざるを得ない。しかしいつかこの壁を打ち破り、人間でも、遺伝子発現から脳ネットワークの活動、そして行動にいたる過程を研究する方法を開発しなければならない。わかりやすく言えば、fMRIを使う研究者がその背景にある遺伝子発現についても同時に研究できるようにする必要がある。このためには、これまで別々に研究してきた様々な分野の研究者の対話と協力が必要だがこれが最も難しい。今日紹介する論文を発表したIMAGENコンソーシアムは名前が示すように、脳イメージと遺伝子を統合しようという意欲的課題に挑戦する国際コンソーシアムで、この論文でも脳イメージと遺伝子発現をなんとか相関させようと努力している。タイトルは「Correlated gene expression supports synchronous activity in brain networks (脳ネットワークを同調させる遺伝子発現)」だ。この研究ではまずfMRIイメージングを用いて、安静時互いに同調している脳部位を探索し、同調的に結合する4つの独立したネットワークを特定している。次に、アレン研究所が蓄積してきたヒトの脳各部位の遺伝子発現を調べたデータベースを探索し、それぞれのネットワークの同調性と相関している遺伝子を探索している。最後に、この同調性を支えていると考えられる遺伝子発現がマウスの脳でも同じように見られるかを、同じくアレン研究所のマウス脳各部位の結合性と遺伝子発現を調べたデータベースを使って確認している。正直言って、30人近い様々な分野の研究者の論文のせいか、データのプレゼンテーションがわかりにくく、また表の説明があまりに短すぎて、このコンソーシアムに参加していない読者には理解しづらい論文だ。私も読み始めてすぐ、完全に理解するという気持ちは早々と失せてしまった。とはいえ、この挑戦意図ははっきりとしており、理解不十分でも是非紹介したいと思った。最終的にこの研究により、脳内ネットワークの同調性と相関する遺伝子リスト(136)が作成され、さらにこの同調性を最も上流で支配している分子としてシナプスでのシグナル伝達に直接関わる分子が特定され、アルツハイマー病や統合失調症との関連がすでに示された分子がこのリストに含まれていることを示している。ここで示された同調する脳内ネットワークの発現パターンは生涯安定で、このネットワークが破綻することで様々な神経疾患が起こるのではと議論している。これが私が理解できたことだが、まずIMAGENと洒落た名前で的確に将来の課題を設定したコンソーシアムに様々な分野の研究者が集合していること、そしてそれを支える膨大な脳の遺伝子発現や結合性に関するデータベースの構築が着々とアレン研究所で進んでいることに驚いた。この現状を見ると、我が国の統合データベースの現状が心配になる。世界的視野で一度しっかり総括する必要があると思う。

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