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6月20日:コカイン中毒による脳の構造変化(Nature Neuroscienceオンライン版掲載論文)

2015年6月20日
トヨタの女性役員がオキシコドンを届け出なしに不法に持ち込んだ容疑で逮捕されたが、これに対し昨日トヨタ社長が彼女は仲間で、違法性がないことが明らかになることを信じて待つと陳謝したことが報道されている。早速、核心をはぐらかしたとして非難するメディアも多いようだが、私は現段階で当然の発言だと思う。これがアメリカで広がっているオキシコドン中毒によるのか、あるいは痛みを抑えるために使っていた処方薬なのかはすぐ分かることだろう。いずれにせよ、脱法ドラッグを始め、薬物中毒についての報道は絶えないが、コカイン中毒を増強する一方、アルコール中毒を防いでいる分子GIRK3について紹介したように(http://aasj.jp/news/watch/3456)、薬物と嗜好品の間に明確な線を引くことは難しい。例えばオランダのように大麻などはソフトドラッグとして取り締まらない国から、大麻でも大量に所持しておれば死刑になるシンガポールまで線引きは多様だ。法的対応にこのように違いはあっても、社会として薬物に対応しているのは、薬物自体の作用の問題ではなくその中毒性のせいだ。したがって、医療として行われる投与はシンガポールでも当然合法だ。中毒性が起こる原因については、薬物使用により新しい神経回路が形成されると考えられてきたが、生理解剖学的な明確な変化として示すことはなかなか難しい。今日紹介するニューヨーク大学の薬物中毒研究所からの論文は、コカイン服用によって前脳の側坐核の構造変化が起こることがコカイン中毒の原因である可能性を示した研究でNature Neuroscienceオンライン版に掲載されている。タイトルは「Activin receptor signaling regulates cocaine-primed behavioral and morphologyical plasticity (アクチビン受容体シグナルによってコカイン服用による行動学的、形態学的可塑性が調節されている)」だ。このグループはコカインによる短い刺激と、中毒という長期的効果誘導の間を、アクチビンにより誘導される神経自体の長期変化が仲介しているのではと狙いをつけて研究を始めている。さすがに薬物中毒研究所だけあって、留置カテーテルからコカインが自分の意思で注射できる方法を確立しており、1日20日位ぐらい服用するラットを準備している。その後服用を中止させて1日目、7日目の側坐核を調べると、7日後だけにアクチビンシグナルが更新していることを見出した。すなわちコカインが中断され一定期間たつと、アクチビンシグナルに関わる分子の発現が上昇する。そこで、アクチビンや阻害剤を直接脳内に投与すると、アクチビンにより中毒症状が亢進し、阻害剤で中毒症状が抑制される。遺伝子導入でsmad3分子発現を上げたり下げたりすることで同じ結果を再現できる。最後に、この反応による形態学的変化を調べると、神経の樹状突起から出ているスパインと呼ばれる枝の数が増える一方、スパインが細くなっており、この変化はアクチビンシグナルを遺伝子操作でブロックすると抑制できる。これらの結果から、コカイン服用中の中毒はコカイン自体の薬理作用だが、中止してから1週間で脳側坐核特異的な変化がアクチビンシグナル分子の発現亢進により誘導され、それが結局薬剤から離脱できない原因であるということが結論できる。もちろんラットとヒトが同じかどうかわからない。ただ、もし脳細胞だけに効くアクチビンシグナル阻害剤が開発できれば、中毒問題の一部は解決できるかもしれないという結果だ。中毒について新しい方向を示す研究だと思う。

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