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6月21日:腸管の新しい幹細胞・・・直腸ガン三題(6月4日号Cell Stem Cell掲載論文)

2015年6月21日
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最新号のCell Stem CellとCellに大腸ガンに関係する論文が3報発表されていた。この中では、最初に紹介するコロンビア大学から発表されたCell Stem Cell論文、「Krt19+/Lgr5- cells are radioresistant cancer-initiating stem cells in the colon and intestine (Krt19+/Lgr5-細胞は放射線抵抗性の大腸、小腸の発がんの元になる幹細胞だ)」の重要度が高いように私には思える。ただ、それぞれまとめやすいので3報とも紹介する。腸管幹細胞の研究はHans Clevers のグループがR-spondin受容体Lgr5が幹細胞特異的に発現しているという発見から大きく進展した。全ての腸管上皮細胞がこの細胞由来であること、ガンもこの細胞から発生することが示され、最後に現慶応大学の佐藤さんが、一個のLgr5陽性細胞から試験管内で腸組織を再構成できることを示したことで、腸の幹細胞についての議論は終焉したように思えていた。ただ、現象論的に観察される放射線に抵抗性の幹細胞群の存在は、Hans Cleversたちの考えとは完全に合致しない。この問題を解くため、このグループはLgr5+細胞以外にも幹細胞が存在するのではと考え、分化が終わってから発現すると考えられてきたKrt19発現細胞をラベルして追跡してみたところ、幹細胞の存在するクリプトに全く存在しないKrt19陽性細胞から驚くことにLgr5+細胞が分化してくるのを観察した。すなわち、一度分化した細胞の中にも新しいタイプの幹細胞が存在し、この細胞からLgr5+細胞も分化してくることを証明した。次に放射線照射したマウスで調べると、Lgr5+細胞は照射後子孫を造れない一方、新しいKrt19+幹細胞は放射線照射後も子孫細胞を造れることを示している。更に、この幹細胞とLgr5+幹細胞は互いに転換可能であり、一つのセットとして腸管維持に働いていることを示した。最後にガンもLgr5+細胞からだけでなく、新しい幹細胞からも起こること、新しい幹細胞から発生したガンは全く違った性質を持っており、今後治療研究には両方のタイプのガンを調べる必要があることを示している。一見完全に見えるHans Cleversのシナリオでも、それを定式化する間に小さな問題が無視されており、そこを追求することで新しいWin-Winのシナリオが生まれるという話だ。ただ、この幹細胞の発見の今後の寄与度は大きいと思う。人のガンや幹細胞ではどうなのか、試験官の系で調べていくことが重要だろう。   一方、6月18日号のCellには大腸ガンについての論文が2報掲載されている。ともに新しい幹細胞については全く無視しているが、最初のスローンケッタリングガン研究所からの論文、「Apc restoration promotes cellular differentiation and reestablishes crypt homeostasis in colorectal cancer (Apc発現を復活させると大腸ガンの分化が促進されクリプトのホメオスターシスが再構築される)」では、Apc分子の発現を自由にオン/オフできるモデルマウスを作成して、Apc分子の機能を調べた論文だ。論文の中に、Apc,ras,p53と大腸ガン発がんに必須の変異が揃ったところでApc発現を回復させる実験が示されており、他のガン遺伝子が活性化していてもApcが回復するとガン性が完全に抑制されるという結果を示している。一見あたりまえの結果だが、ガンに関わる分子の中ではApcが最も上流に位置することを証明できており、治療法開発等にも役に立つのではと思う。あたりまえだと思って誰もやらないことを試み、あたりまえの結果を出すことは本当は重要だ。最後のテキサスセントジュード病院からの論文「Critical role for the DNA sensor AIM in stem cell proliferation and cancer (細胞質DNAセンサーAIM2は幹細胞の増殖とガン発生に必須の役割を持つ)」だ。AIM2は細胞内に侵入した細菌のDNAを感知するセンサーの役割を持ち、自然免疫に関わる分子として研究されてきた。DNAと結合するとASCアダプター分子がAIM2とcaspase1を結合させ、活性化されたcaspase1が細胞死を誘導したり炎症性サイトカインを誘導する。不思議なことに、このAIM2遺伝子は高率に直腸がんで変異しており、完全に欠失したガンでは極めて予後が悪いことが知られているが、そのメカニズムはよくわかっていなかった。このグループは発ガン剤投与で大腸ガンを誘導する実験系で、AIM2欠損の影響を調べている。その結果、これまで知られていた自然免疫とは全く異なるメカニズムでAIM2が直腸がんの発生に関わることを見出した。特にAIM2欠損マウスの幹細胞の増殖は5倍以上亢進しており、この増殖促進がWnt-βカテニン経路を介して起こっていることを突き止め、AIM2欠損が大腸ガンで高率に見られる説明を提供している。ただ、論文はその後血液やストローマ細胞、さらには腸内細菌叢にまで拡大してわかりにくい。おそらく、AIM2が増殖経路をどう抑えているのかの分子メカニズムを明らかにできなかったため、論文の価値を高めるため様々な内容を詰め込みすぎている。また、AIM2欠損で見られる遺伝子の不安定化についても説明ができていない。さらに、オーソドックスなガン遺伝子変異モデルとの関係もわからない。AIM2に関してはまだまだやることがありそうだ。   以上3報の論文を紹介したが、いずれも正常の幹細胞とガン細胞を並行して研究しており、やはりHansや佐藤さんの貢献は偉大だ。
  1. okazaki yoshihisa より:

    この幹細胞とLgr5+幹細胞は互いに転換可能。
    ガンもLgr5+細胞からだけでなく、新しい幹細胞からも起こる。
    新しい幹細胞から発生したガンは全く違った性質を持っている。
    Imp:
    がん幹細胞の可塑性が科学的に示された。
    Organoid医学の威力は絶大です。

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