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6月26日:膵臓癌の早期発見を可能にするエキソゾーム(Natureオンライン版掲載論文)

2015年6月26日
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今月後半立て続けに九大、神戸大の臨床の方々と話す機会があったが、皆さんが一様に驚いているのが、CellやNatureに掲載される人間を扱った研究が増えたことで、れっきとした臨床論文が掲載されることも普通になってきた。この傾向はこれら雑誌の編集方針の変化によるところも大きいだろうが、ゲノムを始め人間を研究するための手段が増えたことも一因だろう。今日紹介するテキサス大学MDアンダーソン癌研究所からの論文もそんな一つで、血中に分泌されるエキソゾームを使った膵臓ガンや乳ガンの早期診断法の開発だ。タイトルは「Glypican-1 identifies cancer exosomes and detects early pancreatic cancer(Glypican-1はガン由来のエクソゾームの検出に利用可能で、膵臓ガンの早期診断を可能にする)」だ。タイトルにあるエキソゾームは細胞から吐き出される膜で囲まれた小胞のことで、神経伝達に関わるシナプス小胞のように細胞間の情報伝達に関わっているのではと盛んに研究が行われている。例えばこのホームページでもガン細胞から吐き出されるエキソゾーム中のマイクロRNAが正常細胞のガン化を促すという恐るべき研究を紹介した(http://aasj.jp/news/navigator/navi-news/2450)。実は今日紹介する論文もこのセンセーショナルな研究を発表した同じグループからの仕事で、論文が扇動的に書かれているのも同じだ。研究は、膜貫通型のヘパラン硫酸プロテオグリカンの一つ、Glypican-1の膵臓ガンや乳ガンでの上昇が、血中を流れるエキソゾームに反映さているのではと狙いをつけて、ガン患者さんと正常人とを比べることから始めている。期待通り、膵臓ガン190例全例、乳ガン32例中20例でGlypican-1陽性のエキソゾームが検出され、一方正常人100例では全く検出されない。驚くべきことに、膵臓ガン患者血清中から取り出したエキソゾーム中に含まれるRNAには膵臓ガン由来と思われる変異型RAS遺伝子が31例で検出できる。このことから、Glypican-1陽性エキソゾームはガン特異的に血中に存在すると結論できる。さらに驚くべきことに、これまで利用されているガンのバイオマーカーでは全く発見できない、膵臓ガンに発展することの多い前癌状態も検出できる。他にも、手術を受けた患者さんではすぐに低下するが、予想通り完全に切除しきれていないこともわかる。術後の低下の程度で患者さんを分けて予後を調べると、低下がはっきりした患者さんの半分以上は40ヶ月生存しており、膵臓ガンとしては画期的な結果だ。最後にガン遺伝子を導入したマウスの発ガン過程を追跡し、まだガンが組織学的にもよくわからない時点からこの方法で検出できることを示している。以前紹介した論文も、今回の論文も扇動的すぎるのではという懸念はあるが、現在もなお膵臓ガンに対する手段が早期発見しかないことを考えると、大きな期待が持てる結果だ。おそらくすでに検査法としての確立、大規模治験も進んでいるだろう。このように、メカニズムは問わず、臨床に重要であればトップジャーナルも飛びつく時代が来ている。

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