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6月29日:T−PLL白血病のエピジェネティック治療:臨床治験と臨床研究(6月24日号Science Translational Medicine掲載論文)

2015年6月29日
成人のT細胞性白血病というと、我が国ではHTLV-1ウイルスによる白血病が真っ先に来るが、それ以外にもT細胞性前リンパ性白血病(T−PLL)と呼ばれる病気が存在する。もともとまれな疾患で大規模治験が難しいため特異的治療法開発は難しく、一般的な抗がん剤も効かなかった。幸い、最近になって慢性リンパ性白血病治療薬として開発された抗CD52抗体アレムツズマブがこの白血病にも効果を示すことがわかり、完全寛解が得られる場合も出てきた。しかし、アレムツズマブだけで根治することはなく、短期間に治療抵抗性が発生することもわかってきた。今日紹介するペンシルバニア大学からの論文はT−PLLのアレムツズマブ治療に、DNA及びヒストンのメチル化阻害剤と、ヒストンの脱アセチル化阻害剤を併用して、細胞のエピジェネティックな状態を変化させると寛解期間が長引くことを示す研究で、Science Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Epigenetic therapy overcome treatment resistance in T cell prolymphocytic leukemia (エピジェネティック治療がT細胞性前リンパ性白血病の治療抵抗性を克服する)」だ。この論文は医師の思いつきをまず臨床的に確かめる典型的研究で、一般臨床紙では医師の裁量によるさじ加減として認めないことも多い。とはいえ、この研究で使われた全ての薬剤はFDAにより認可されており、エピジェネテイック薬として使われたクラドリビン、ボリノスタットはともに白血病治療薬として我が国でも使われている。この研究では、55−77歳のT-PLL患者さん8例にアレムツズマブとクラドリビンとボリノスタットを併用して経過を観察し、併用により生存期間を大きく伸ばすことができることを示している。特に薬剤を中止した後白血病細胞が増えてきた時点で同じ治療を繰り返すことで、寛解を誘導できるという症例報告は、この治療の有効性を示唆している。しかし副作用は当然覚悟しなければならず、1例ではエピジェネティック薬の副作用と思われる脳出血で死亡している。今後、さじ加減を治療プロトコルへと転換させる必要があるが、期待は持てるように思う。もう一つ臨床的な成果として示されたのが、ブレンツキシマブベドチンと呼ばれる抗CD30に微小管阻害剤を組み合わせた複雑な薬剤が、白血病細胞の皮膚浸潤の抑制法に効果があることを示した結果だろう。エピジェネティック薬は特定の遺伝子を標的にするわけではなく、DNAやヒストンのメチル化過程、あるいはヒストンの脱アセチル化を阻害するため、その効果がどの遺伝子に現れるか予想がつかない。この研究では、エピジェネティック薬剤を使った時どの遺伝子に大きな変化が見られるかを調べ、半数の患者さんでCD30発現が大きく上昇することを発見し、この細胞を狙ったブレンツキシマブベドチン投与を行ったところ、治療になかなか反応しなかった白血病細胞により誘導される皮膚病変が大きく改善することを見出した。他にもエピジェネティック薬投与の影響を調べる様々な検査が行われ、白血病細胞で様々な遺伝子発現が変化していることが示されているが、基礎研究としてみても完全とは言えず、結局この論文から学べるのはこの2つの臨床的結果だろう。特に、エピジェネティック薬を用いた時、思いもかけない標的分子がガンに新たに現れるということを頭において、今後患者さんを見ていくことは重要だ。これら薬剤を使用する他の疾患でも是非詳しく調べて欲しいと思う。   医師の裁量による少数例の結果を報告するスタイルは医学の伝統で、重要な発見につながることも多いが、最近は薬の効果を示す論文としては採択されることが少なくなった。しかし昨年12月に紹介したScience論文では悪性黒色腫3例についての治療だったし(http://aasj.jp/news/navigator/navi-news/2585)、また3月15日に紹介したグリオブラストーマの樹状細胞治療に関するNature論文は6例についての研究だった(http://aasj.jp/news/watch/3061)。このように、少数例についての臨床研究を一般のトップジャーナルが掲載する傾向が出てきたように思える。ただ、これまで議論されてきたように医師の裁量を自由に認めることは時代逆行になる危険もある。もう一度医師の裁量に基づく臨床研究の位置付けをしっかり議論しておく時がきたように思う。

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