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Nature Medicine 8月号社説:火に脂肪(油)を注ぐ

2013年8月30日
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今日はNature Medicineの一種社説を取り上げてみた。実際の記事は英語。
http://www.nature.com/nm/journal/v19/n8/full/nm.3301.html

6月シカゴで開かれたアメリカ医師会で肥満を病気と認めるかどうかについて投票が行われた。60%以上の賛成で可決されたが、これに対する意見を述べた記事だ。意見の調子はおおむね否定的で、この決定に対して医師会の専門会委員会自体が疑問を呈していることを紹介するところからはじめている。その上で、医師会が賛成する理由について紹介している。勿論肥満がさまざまな疾患を生むことは当然だ。また、アメリカ人の1/3がボディマス指数で言えば肥満と診断され、世界には5億人を超すという状況を考えれば、当然取り組まなければならない。この目的を手っ取り早く果たすためには、病気であると認定して、ショックを与えた方が効果があるという訳だ。肥満を理由に社会差別が起こることを防ぐためにも肥満を病気と認めるべきという理由になると、さすがにアメリカ的だと思える。いずれにせよ、これだけなら全員一致で賛成だろう。しかし、40%は反対した。勿論科学的にどこまで肥満というのか、基準をどうするのかは難しい問題だなどの理由だ。その上で、最も深刻な問題として懸念されているのが、病気と認めることで医療が発生し、医療費の高騰を招くというものだ。すなわち、脂肪除去術を含め多くの治療が医療のもとに行われることに対する懸念だ。この議論を紹介した上で、Nature Medicine紙は、肥満を病気とするために必要な科学的基準の設定が難しいことを指摘し、更なる研究が必要であると締めくくっている。

   高脂血症、高血圧、糖尿病、いわゆる3種セットと言われる疾患は、境界に多くの病気予備軍と言われる人がいる。また生活習慣病とは言い得て妙で、生活習慣を改めることで結構コントロール可能だ。従って、どこからが医療で、どこからが個人の努力かの境が曖昧になる。実際、これらの病気に対しては様々な薬品が開発され、いずれも会社のドル箱になっている。このドル箱の薬は特許期限が切れて各会社も次の手が必要になっている。このように穿って考えだすと、今回の投票も何となく裏が透けて見える気がするのは私だけだろうか。専門科委員会がこの投票に対して出した意見でも、この点が指摘されている。これから議論しなければならないのは、薬が病気を作るという問題だ。これまではこれは副作用を意味していた。しかしこれからは、薬が開発されることで病気が作られることだ。いずれにせよ、医師会や専門家だけで決めていい問題でないことだけは確かだ。これについては、専門家向けの本では議論されているようだが、薬が病気を作るとなると、あらゆる人の問題だ。日本のメディアでも是非取り上げてほしかった。

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