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8月19日:バレット食道とトランスポゾン(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2015年8月19日
この歳になると体のあちこちに異常が出てきて、経過観察のためお盆明けに内視鏡検査を含む健康診断を受けるのが恒例になっている。特に気になるのが、数年前から食道にあるバレット食道だ。バレット食道とは、食道の扁平上皮が一層の円柱上皮に変化する異常で、前癌状態と言われている。ただ、食道なので、これがあるから手術で予防的にとってしまうというわけにはいかない。もともと欧米人の一割がバレット食道にかかっていると言われる頻度の高い状態であまり気にしていなかったが、昨年6月に紹介したようにバレット食道細胞にはp53,SMAD以外のほぼ全ての遺伝子変異が存在しているという論文(http://aasj.jp/news/navigator/navi-news/1748)を読んでからはだいぶ気になる。今年も変わりなしと言われてホッとしたところだ。さて、今日紹介するジョンズホプキンス大学からの論文は食道で正常の細胞では動かないトランスポゾンが動き出し、ゲノムの他の場所に飛び込んでいることを示す論文で、米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「LINE-1 expression and retrotransposition in Barrett’s esophagus and esophageal carcinoma (バレット症候群と食道癌ではLINE-1トランスポゾンが発現し転移する)」だ。LINE-1は私たちのゲノムにもっとも多く存在するトランスポゾンで、実にゲノム全体の2割超を占める。普通の細胞では染色体の構造を変えて飛び込んだLINE-1の動きを押さえ込んでいるが、多くのガンで再活性化することが知られている。この研究では、バレット食道5例と、バレットと食道癌が並存している5例のバイオプシー組織の遺伝子を調べ、正常組織と比べることでLINE-1の活性が起こっていないか調べている。結果は5例のバレット食道のうち4例で20箇所の新しいLINE-1の転移が発見され、そのうちの半分はほとんどの細胞で見られる変異であることが分かった。このことから、バレット食道になってトランスポゾンが動いたと考えるより、正常細胞で突然LINE-1が活性化され、原因かどうかは不明だがバレット食道で選択的に増大していることがわかる。次に食道癌へ発展した患者5例で、正常部分、バレット食道部分、そしてガン部分を別々に取り出しLINE-1の変化を調べると、バレット食道からガンが発生したのがわかるグループ、両者の関係がはっきりしないグループ、そして正常細胞でLINE-1が動き始めたグループを特定できるが、症例数が少なくはっきりした結論が出ない。そこで、食道癌のサンプルの数を増やして調べ、食道癌のほとんどでLINE-1が活性化され、その中からガンが発生していることを確認している。LINE-1が動くためにはLINE-1がコードする遺伝子の発現が必要だが、確かにガンやバレット食道ではLINE-1にコードされたタンパクの発現が見られている。また、正常部分でも弱いながらも発現が見られ、異常が起こる前から食道では弱いながらもLINE-1が活性化されている可能性を示唆している。最後に、LINE-1が新たに組み込まれた場所に発ガン遺伝子が存在するか調べたところ、イントロンに新しく組み込まれた48個のLINE-1のうち半数がガンに関連している遺伝子のイントロンで、LINE-1の転移が発ガンに寄与している可能性を示唆している。少し結果がゴタゴタしすぎた印象があるが、結論として正常細胞でLINE-1が弱いながらも活性化され、転移が起こると、その細胞が選択的に拡大し、バレット食道に発展する。バレット状態ではLINE-1の活動がさらに活発になり、場合によりガンになることもあるという結果だ。重要なことは、LINE-1以外にも私たちは多くのトランスポゾンを持っており、これらはLINE-1の活性を使って転移する。したがって、これ以外にも多くのトランスポゾンがバレットから食道癌への過程で動いている心配がある。もちろんトランスポゾンの変異だけでガンになるわけではないし、飛び込んだトランスポゾンを抑え込むメカニズムもある。しかし、数を増やして全ゲノム解析を進め、他のトランスポゾンが便乗していないか、トランスポゾンを抑え込む機構が正常に働いているのか調べる必要があるだろう。せっかく今年もほっとしたところなのに、心配になる論文を読んでしまった。

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