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8月27日:遺伝子の水平伝達(8月27日号Nature掲載論文)

2015年8月27日
現在月2回ペースでJT生命誌研究館のホームページに「進化研究を覗く」と題して、進化研究について考えたり論文を紹介したりする文章を書いている。昨年このサイトに「真核生物の進化」(http://www.brh.co.jp/communication/shinka/2014/post_000008.html)と「水平遺伝子伝搬」(http://www.brh.co.jp/communication/shinka/2014/post_000009.html)というタイトルで、種間(主に原核生物と真核生物の間)で行われる遺伝子の伝搬についての研究を紹介した。そのなかでミトコンドリアや葉緑体の内部共生説を唱えたリン・マーギュリスさんたちの論文が掲載されるまでに5年以上かかった苦労話や、逆に今では産総研の深津さんたちのアズキマメゾウムシに寄生するボルバッキア遺伝子の水平伝達についての研究に見られるように、水平伝達を一つの手段として進化を考えるようになっていることを紹介した。ただ水平伝達についての研究は、個別のエピソードで止まっていることが多く、本当に種の分化と維持に関わるのかはっきりしているわけではない。今日紹介するデュッセルドルフ大学からの研究は、原核生物、アルケア、真核生物のゲノムを横断的に比べて水平伝達とその維持について調べた研究で今日発行になったNatureに掲載された。タイトルは「Endosymbiotic origin and differential loss of eukaryotic gene (内部共生に由来する真核生物の遺伝子とその種特異的喪失)」だ。このグループは、水平伝達の論文が当たり前になった現状に疑いを持ったのだろう。個別のイベントとして水平伝達があるにしても、それが進化を支える重要な要素として存在するかどうかはわからない。もしそうなら、原核生物から人間まで全ての生物の持つ遺伝子を比べることで、起源を同じにする遺伝子が多くの種に維持されているのが見つかるはずだと考え、55種類の真核生物、1847種の原核生物、134種類のアルケアに存在するタンパクのアミノ酸配列を比べ、その相同性から起源や系統関係を調べている。要するに、森を見ないで木だけを見ている研究が見落としたことを、森全体を見ることで明らかにしようという作戦だ。結果は明瞭で、1)水平伝達が明確で、進化の過程で維持し続けられていることが明らかな遺伝子は全て、シアノバクテリアに由来する葉緑体と、アルケアに由来するミトコンドリアが取り込まれた一度だけのエピソードに由来していること,2)この時取り込んだ遺伝子の多くは、オルガネラからゲノムに導入されたが、種ごとに異なる遺伝子を失ってきていること,そして、3)確かにその後も水平遺伝子伝達が起こったものの、ほとんど維持されている痕跡がないこと、を示している。これらの結果から、水平伝達で遺伝子を取り込む種が進化上の優位性を獲得することはなく、ほとんどが滅びてしまっていること。したがって、現在起こっているような水平伝達のほとんどは、進化を推し進める要素にはならないと結論している。なかなか示唆に富む面白い仕事だが、この研究では全く実験は行われていない。大勢に流されず、独自の疑問を持ち、利用可能になっている膨大なゲノムデータを新しい観点から眺め直し、重要な結論を導き出すという、頭のいい研究の典型と言えるだろう。すなわち、若手研究者だけでなく、全く分野外の一般人にも、新しい考えを検証するチャンスが常に転がっている時代がここにあるということだ。集合知の時代が始まった。

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