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9月3日:遺伝子改変Tリンパ球治療の進歩(9月1日号Cancer Research掲載論文)

2015年9月3日
昨年10月18日このホームページで、遺伝子改変自己Tリンパ球移植が、他の治療では手の施しようのなかった再発性のリンパ性白血病の患者さんに著効を示したというペンシルバニア大学からの治験を紹介した。(http://aasj.jp/news/navigator/navi-news/2309)。この方法は、CART(chimeric antibody receptor T )法と呼ばれ、ガンに対する免疫を自由に操作する論理的治療法として今もっとも期待されている治療だ。普通ガン免疫というと、ガン細胞が特異的に発現している抗原に対するキラーT細胞を誘導することを意味するが、免疫誘導に関しては個人差があり操作が難しい。この治療では、ガンが発現している細胞表面分子に結合する抗体の抗原結合部位遺伝子をT細胞受容体遺伝子と結合させたキメラ遺伝子を作り、その遺伝子を導入した自己T細胞を使ってガンを攻撃させる。従って、ガン細胞表面に特異的に発現している分子に対するCAR遺伝子を用意しておけば、原理的に誰もが同じ治療を受けることができる画期的な治療だ。最初の治験は確かに目覚しい結果だったが、この方法が他のガンに拡大できるかどうかは、1)ガン特異的な抗原が見つかるかどうか、2)白血病以外の固形ガンにも適用できるかにかかっている。今日紹介するこの治療法開発の前線にあるペンシルバニア大学からの2編の論文は1番目の問題に対する一つの解決方法を示した論文でともにCancer Research9月1日号に掲載された。論文のタイトルは「Affinity-tuned ErbB2 or EGFR chimeric antigen receptor T cells exibit an increased therapeutic index against tumors in mice (ErbB2やEGFRに対する親和性を調節したCAR-T細胞はマウスのガンに対する治療指標を改善する)」と「Tuning sensitiveity of CAR to EGFR density limits recognition of normal tissue while maintaining potent antitumor activity (EGFRの分子密度に対するCARの感受性を調整することでガンに対する活性を保ったまま正常組織への免疫反応を制限できる)」だ。最初の治験論文を読んだ時誰もがその効果に驚いたが、それとともに治療を受けた全ての患者さんでB細胞が消失してしまったことに強い印象を受けた。これはCARに使われた抗体がCD19抗体で、白血病だけでなく正常B細胞にも発現しているからで、正常の細胞までガンとともに完全に除去してしまうという凄まじい威力に目を見張った。しかしB細胞の欠損はなんとか対応できるが、例えば消化管上皮などに発現している抗原に対するCARを使うと全体が壊死するという大変なことになる。これらの論文では、正常組織に発現しているErbB2やEGFRをあえて選び、この抗原に対する親和性を落とすことで、高いレベルで同じ抗原を発現しているグリオブラストーマなどのガンだけを攻撃するCAR-T治療が可能かどうか調べている。詳細は全て省くが、結論は期待通り、モデル実験レベルではこの戦略が有効であると結論している。ただ、データを見てみると親和性を落とすと、CAR-Tの効きが落ちている。また、両方とも固形ガンに対する治療だが、白血病と比べると治癒率が低いように思えた。したがって、今回開発されたCARをそのまま臨床応用できるか疑問がある。しかし、正常組織に発現があっても、その分子に対する抗体を全く使えないわけではないことがわかったことは重要だ。また一つの論文では脳内で増殖するグリオブラストーマにもCAR-Tが有効であることが示され、脳腫瘍にも使えることが示されたのも期待できる結果だ。今後、抗体自体の親和性を操作する方法と並行して、ガンだけに発現している抗原の探索も進むだろう。また固形ガンへのCAR-Tのアクセスについてもこれまでとは異なる発想の研究が進むだろう。例えば、ガンを支持する血管はガンを助けると考えて治療が行われる。しかし免疫細胞のアクセスを考えると、ひょっとしたらもっと血管やリンパ管を増やす方がいいかもしれない。これまでの抗がん剤治療は、免疫治療の後に来るようになるかもしれない。このように、免疫治療はガンの治療を根本的に変える可能性を秘めている。このホームページで繰り返してきたが、今年はCAR-T、ガンゲノムに基づく個人用ワクチン、免疫チェックポイント操作などガンの免疫療法が大きくクローズアップされる1年になるだろう。期待したい。

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