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9月7日:アスピリンによるガン免疫の増強(9月10日号Cell掲載論文)

2015年9月7日
アスピリンが発ガンを抑えることは様々な実験で示されている。これまで私は、この効果はアスピリンがガンの周りの細胞のCOX酵素に働きかけ、プロスタグランジン発現を抑制して炎症を抑えることで、ガンの進展を促す様々な分子を抑えるからだと理解してきた。今日紹介するロンドン・フランシスクリック研究所からの論文は、ガン自体もCOX/プロスタグランジンを使って宿主の免疫から逃れていることを示した、意外なガン増殖促進経路の存在を明らかにした研究だ。タイトルは「Cyclooxygenase-dependent tumor growth through evasion of immunity(COX依存性に免疫を逃れることで腫瘍は増殖する)」で、9月10日号のCellに掲載されている。このグループはガン自体によるプロスタグランジンがガンの環境に及ぼす影響を研究していたのだろう。その過程で、実験的メラノーマの発現するプロスタグランジンにより、炎症時に最初に浸潤する顆粒球に対する炎症性サイトカインの産生が誘導されていることを見出す。この反応を腫瘍のCox遺伝子やプロスタグランジン合成酵素遺伝子をノックアウトして抑えてやると、腫瘍自体の増殖には影響ないが、免疫系を刺激して体内での腫瘍の増殖が抑制されることを発見した。この現象を詳しく解析し、1)ガンが発現するプロスタグランジンは、顆粒球を中心とする炎症反応を上昇させる結果、ガン抗原を処理する重要な樹状細胞のガン周囲への集積を阻害することで、結果的にガンのキラー反応を抑制する、2)このメカニズムは様々なガンで共通に見られる、3)抗PD-1抗体でガンの免疫チェックポイントを抑制するときアスピリンを投与すると効果が著名に増強する、おそらく樹状細胞の浸潤を促すことで免疫自体を誘導してPD−1抗体が効く為の前提条件を準備するのだろう、4)人のガンでもプロスタグランジンのレベルと局所へのキラーT細胞の浸潤は逆相関する、ことなどを示し、ガン自体のプロスタグランジン産生が免疫反応を逃れるメカニズムになっていると結論している。最初ヒトでの治験データもあるかと思って期待したが、この結果がヒトに応用できるかどうかはわからない。ただ現在話題の免疫チェックポイントを標的とする治療法は、肝心の免疫が成立しないと意味がない。この点から言うと、ガンの周りに樹状細胞を誘導して免疫を成立させるのをアスピリンが助けるとすると、まさに鬼に金棒といったコンビになる気がする。今年の3月このホームページで樹状細胞による免疫療法を行うとき、破傷風トキソイドとCCL21ケモカインを前もって注射しておくと、グリオーマの患者さんが40ヶ月以上生存できているというNatureの論文を紹介したが(http://aasj.jp/news/watch/3061)、今回紹介した結果の多くはNature論文とも一致する点が多い。アスピリンにはもちろん副作用はあるが、治験をするという点では敷居は低い。メラノーマについてはチェックポイント療法のデータが蓄積しているので、抗体と組み合わせた時、効果の見られる確率が上がるか?組織学的に免疫が成立していないケースで、免疫を誘導できるか?など、新しいプロトコルの開発を早期に進めてほしい。

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