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9月8日:ガン抑制遺伝子p53の2面性(Natureオンライン版掲載論文)

2015年9月8日
p53分子は最も有名なガン抑制遺伝子で、多くのガンでこの遺伝子の欠損や突然変異が見つかっている。恥ずかしいことに、私自身は欠損も突然変異も、結局はp53のガン抑制機能の欠損につながるだけだと理解していた。しかし実際には研究が進んでいて、点突然変異を持つ分子のいくつかは、ガン抑制機能が失われるだけでなく、ガン増殖を促進する新たな性質を持つことが徐々に明らかになっていたようだ。今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は点突然変異を持つp53が獲得した新しい性質についての研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Gain of function p53 mutants co-opt chromatin pathways to drive cancer growth (p53分子の機能獲得型突然変異はクロマチンを変化させてガンの増殖を駆動する)」だ。突然変異が起こった後でも、もちろんp53は転写因子として働いているはずだという考えのもと、この研究では突然変異型p53を発現しているガン細胞株を選び、p53分子が結合している部位を全ゲノムにわたって調べている。この結果、調べた全てのタイプの突然変異によりp53はETS2転写因子と相互作用する性質を獲得し、またその結合する部位はETS分子の結合部位と重複することを見つけている。次に、突然変異型p53の結合する遺伝子を調べると、正常p53の結合の見られない様々なクロマチン調節分子をコードする遺伝子に結合することを見出した。この中には、MLL1やMLL2のようなヒストンをメチル化する分子やMOZのようなヒストンアセチル化に関わる酵素が含まれていた。そこで、p53突然変異により実際にクロマチン構造が変化しているかどうか調べると、突然変異型p53の発現を抑えるとMLLやMOZなどの分子の発現も低下し、ゲノム全体に渡ってH3ヒストンの9番目のリジンのアセチル化が上昇し、また4番目のリジンのメチル化が上昇することを確認している。このクロマチンパターンは、p53の突然変異により多くの遺伝子の発現が異常に上昇することを示しており、実際ホメオボックス遺伝子をモデルに、遺伝子発現が上昇していることを示している。次に、このクロマチンの構造変化がガンの増殖に関わるのか、ガンで上昇しているMLL1の発現を抑えると、ガンの増殖が低下することを明らかにしている。この結果は、p53突然変異をもつガン細胞の増殖にヒストンのアセチル化やメチル化を抑制する薬剤がこのタイプのガンに効く可能性を示唆している。これを確認するため、最後にMLL1の機能を阻害する薬剤をp53突然変異をもつガン細胞に加えると、ガンの増殖が抑制できることを示している。したがって、突然変異型p53をもつガンの新しい標的としてMLL1などクロマチン調節分子を使うことができるという結論だ。もちろんこのような薬剤は、ガン特異的薬剤というわけではなく、正常の機能も抑制されるため副作用はあると思われる。しかし、メカニズムの違う新しい標的の発見は新たな治療可能性に繋がる。P53変異を十把一絡げに扱わず、正確に突然変異を調べるまさにプレシジョンメディシンの重要性を実感する研究だ。

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