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9月11日:腸内細菌叢検出技術の進展(9月7日号Science掲載論文)

2015年9月11日
腸内だけでなく、体の各部、あるいは生活空間に存在する細菌叢を調べる研究が大きく広がっている。この研究が急拡大した一つの理由は言うまでもなく次世代シークエンサーが普及し、これまでのように細菌を培養せずに細菌の種類を特定できるようになったことだ。この研究のおかげで、体の各部の細菌叢がもう一人の自己として健康に関わっていることが明らかになり、自分の細胞のゲノムだけが自分を代表するとするこれまでの考えが大きく変化することになった。技術的に見ると、最初は特定の遺伝子のみ増幅して細菌の種類を決める方法から、増幅しないで遺伝子を捕捉して調べる方法、そして全ゲノムを調べる方法など、より実態を反映する検査法へとシフトしている。もちろんこのシフトも、DNA配列解読にかかるコストが今も下がり続けているという背景がある。今日紹介するイスラエル・ワイズマン研究所からの論文は、ゲノム解析データからそれぞれの細菌の増殖状態が調べられないか検討した研究で9月7日号のScienceに掲載された。タイトルは「Growth dynamics of gut microbiota in health and disease inferred from single metagenomic sample (一回のメタゲノムサンプルから健康時や疾患時の腸内細菌叢の増殖動態を推定する)」だ。これまで腸内の各細菌種の増殖を調べるというと、違う時間でサンプリングし、それぞれの細菌種の増減を調べて推定していた。しかし、多くの細菌の増殖サイクルは早く、サンプリングの間に何が起こったのか、増殖が落ちたのか、あるいは細菌が死んでしまったのか、など区別することは難しかった。この研究では、ほとんどの細菌のDNA合成が特定の合成開始点から双方向に読まれるという事実を使って、その時の細菌の増殖状態を調べられるのではと着想した。すなわち、細菌の全ゲノムの複製は、まず開始点から始まり、一定の時間をかけて完成する。したがって、一つの細菌の集団のゲノムを調べた時、増殖が盛んな集団では、この開始点近くの領域のDNAが多く存在することになる。開始点近くの配列が出現する頻度と、そこから離れた場所の出現頻度を比べることで、増殖動態がわかるという原理だ。同じようなアイデアはすでに酵母や人間の細胞でも使われているので着想自体は新しくない。ただ細菌は私たちと違って開始点が一つしかないので、計算は楽だ。この研究ではこの着想が実際に可能であることを、試験管内、動物実験、そして人間の腸内細菌で確認している。原理的にはわかっても、このためにはこれまでの何倍ものシークエンス解読が必要ではないかと心配したが、実際には開始点がわかっておれば、これまで程度の深さで配列決定することで十分正確な測定が可能であることも示している。次に、技術的な様々な問題をしっかり解決した上で、様々な病気を持つ患者さんの細菌叢内の各種細菌の動態を調べ、これまでのように細菌の種類の比率を調べるだけではわからなかった2型糖尿病との関連する指標として使えることを示している。実際、食事の内容を変化させると、様々な細菌が急速に増殖に入ることや、あるいはこの指標が上昇するすぐ後で実際の細菌数が増えることなども示されており、今後有望な検査になると思う。おそらくこれまでの特定の遺伝子を増幅する方法は、増幅しないで配列を決める方法に置き換えられるだろう。そうなると、インフォマティックスに強い研究者の出番になる。我が国でも、オリジナルなソフトの開発を進めることができる若手がもっと参加できるよう体制を考える必要があると思う。

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