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9月14日 アルツハイマーの原因になるアミロイドβは感染する?(9月10日号Nature掲載論文)

2015年9月14日
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クロイツフェルドヤコブ病という名前は聞きなれないかもしれないが、狂牛病と同じ異常プリオン蛋白により脳細胞が変性する恐ろしい病気だ。狂牛病の動物を食べることで感染したことがはっきりしている場合をBSE,それ以外の原因、あるいは遺伝性の場合をクロイツフェルトヤコブ病(CJD)と呼んでいる。もっとも痛ましいのが、医原性のCJDで、中でも死亡した人の脳をプールしてそこから抽出した成長ホルモン投与を受けた小人症の患者さんに発症するCJDだ。この構図はヒト血漿から精製した凝固剤にエイズウイルスが混入して医原性のエイズを発症したのと同じだ。この下垂体抽出成長ホルモン治療は1959年から1985年まで行われ、現在まで世界中で1848人の患者さんが報告されている。ただ、CJDは発症まで20年以上の時間があるため、ピークは過ぎたが現在も発症が続いている。今日紹介する英国国立神経病院からの論文は医原性のCJDで亡くなった患者さんの脳にはβアミロイドタンパクが凝集した老人斑が高率に見られることを報告した重要な研究で9月10日号のNatureに掲載された。タイトルは「Evidence for human transmission of amyloidβ pathology and cerebral amyloid angiopathy(アミロイドβによる病理変化やアミロイド血管症は人から人へうつる)」だ。この論文は研究というより、症例報告だ。この病気で亡くなった患者さん8例のうち4例に強いアミロイドβの蓄積が見られたというのが結果の全てだ。このアミロイドβの蓄積は老人斑と呼ばれアルツハイマー病の一つの病理的特徴だ。なぜこれがCJDで見られるのか追及している。まず、アミロイドβの蓄積は医原性のCJDだけで見られ、他の原因によるCJDでは見られない。また、もう一つのアルツハイマー病の特徴タウ蛋白の重合繊維化病変は見られない。この結果から、このアミロイドβは人間の脳から抽出した成長ホルモンに紛れ込んでおり、そこから感染したことが強く疑われる。成長ホルモンは下垂体を集めて精製する。そこで、アルツハイマー病の解剖例の下垂体を調べると、アミロイドβの蓄積が強く見られる。以上の結果から、アミロイドβは注射により人から人へ伝播し、プリオンのように脳内で正常なアミロイド蛋白の構造を変化させることで増殖し、蓄積し、神経死を誘導すると結論している。病気としてはCJDがより激烈なので、アルツハイマー病は問題にならないのかもしれないが、同じ治療を受けた患者さんの中にはアミロイドβだけに感染した人もいると予想される。今後、範囲をCJDが発症していない患者さんにも広げて研究が行われるだろう。ただ、アルツハイマー病のメカニズムを知る上で、アミロイドβにヒトでも感染性があるが、タウ蛋白は伝播しなかったという発見は重要に思える。動物実験でもアミロイドβは神経から神経へと伝播し増殖することが示唆されていた。この貴重な発見から、医原性のCJDという不幸な歴史が、アルツハイマー病治療法の開発へと進むことを期待したい。

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