AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 9月20日:高次機能解明のための市民参加型研究(9月16日号PlosOne掲載論文)

9月20日:高次機能解明のための市民参加型研究(9月16日号PlosOne掲載論文)

2015年9月20日
このホームページでも紹介してきたが、市民参加型の研究が21世紀の科学の一つのトレンドになるのではないかと思っている。ハッブル望遠鏡が撮影したギャラクシーズーのように、実際市民の参加があって初めて成功した研究も続々報告されつつある。しかし、グーグル検索のようなPCへのアクセス、あるいは監視カメラ映像を通していやおうなしに研究に参加させられる事もあり、市民参加型の研究に対する懸念も持たれるようになっているのが現状だ。しかし私自身は、解析に主観的要素が入る認知科学はこういった懸念はあるものの今後市民参加型研究をますます組み入れるようになるのではと予想している。この方向性の一つの目標は、それぞれの心的自己、あるいは主観についての科学の始まりではないかと考えているが、今日紹介するデューク大学からの論文は、この方向性の入り口の研究と言えるのではないかと思った。9月16日付のPlosOneに掲載され、タイトルは「Citizen science as a new tool in dog cognition research(市民参加科学は犬の認知研究の新しい道具になる。)」だ。私は犬も飼っていないし、これまで犬の認知についての研究について全く知らなかった。類人猿と他の動物の間をつなぐ意味で、犬の心理実験の重要性が認識され、最近盛んに行われてるようだ。ただ、これまでの研究では、犬を研究室という特殊な設定に置いて調べていたため、実験的設定自体が実験結果にどの程度影響を持つのか検証が必要だった。この研究は、Dognitionというインターネットサイトを立ち上げ、そこに集まってくれる一般の犬の飼い主に実験を任せることで、犬の日常の中に無理なく実験を組み込む可能性が検討された。驚くのは、メンバーになるためにお金を払った上で、この実験を承諾し、参加する人が集まることだ。自分の飼い犬の認知能力を知りたいと思うのは愛犬家なら当たり前のことなのかもしれない。その上で、これまで研究室で行われてきた犬の認知機能や記憶を調べる課題を選び、飼い主が個人的愛情などの影響を受けることなく成し遂げられるか調べている。個人的バイアスを避けるため、実験プロトコルを犬の訓練士の犬を使って何度も検討し、ビデオも使ったインターネット上で飼い主の教育を行った上で、飼い主に実験を行ってもらい、結果課題を完遂できた約500頭の結果を、これまでの実験室で得られてきた研究結果比べることで、市民に実験者になってもらっても客観的実験が可能か検討している。どんな課題が与えられたかや結果の詳細はすべて省略するが、市民研究者に実験を任せることは可能かという問題については、十分可能だと結論している。例えば、これまでの実験室での研究結果と比べてもほとんど同じ結果が得られており、再現性は高い。逆に、例えば待てと命令したまま実験者が背中を向けて実験を中断するセッティングでは、飼い主が実験する方が長い時間食べ物に飛びつかずに我慢していることなど、飼い主との社会的関係が実験に影響することも明らかになっている。この実験の目的はあくまでも市民参加型研究が可能かの検証で、結果としては特に目新しいものはなかった。しかし課題次第で、出来上がった市民参加型ネットワークから、新しい発見が生まれる予感がする。オオカミの群れの行動から考えると、犬には社会を作りそれぞれの持ち場を決めて共同作業を行うための認知条件が整っている。この社会性を飼い主との関係に利用することで、犬を訓練して多くの仕事を任せることが可能になっている。今後おそらく、他の個体と情報を共有するためのコミュニケーション能力とは何かなど、面白い課題の研究が進む予感がする。是非次の論文を読んでみたい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*